抄録
水稲愛国,銀坊主およびそれらの間の固定型雑種2系統の種子に0.5~50KrのCo60-γ線を照射し,照射当代の感受性,次代に出現した変異ならびにそれらと照射条件またはX1稔性との関係を調べた。(1)50Krまでの線量では発芽に異常は認められなかつたが,幼植物の生育には著しい影響が現われ,50Krでほぼ全個体が致死した。(2)照射当代の個体別種子稔性は線量増加に対して1次函数的に低下し,稔性を半減せしめる線量は10~15Krと推定された。一方浸漬種子に照射した場合には著しい感受性の増加がみられた。(3)X2では銀坊主を中心に実験を行ない,アルビノのほか出穂期,草型,穂型,穎形質,稔性などに関する種々の可視的変異体の出現を見たが,それらの約30%は2ないし数形質が同時に変化していた。また,X1個体内の遺伝的構造が穂だけでなく穂内部分によつても異なる場合の多いことが推察された。(4)染色体異常によると考えられる不稔個体の出現率が,線量増加またはX1稔性の低下に伴なつて1次的に上昇するのに対し,遺伝子的変異が主因と考えられる不稔以外の諸変異体の出現率は,線量に伴なう明らかな増加を示さずまたX1稔性とも無関係で,ともに低くかつほぼ一定であった。(5)供試品種または系統間には,一,二の点を除いて変異発現の傾向に重要な相違は認められなかった。(6)以上の結果に関してそれぞれ考察を加え,育種上有用な変異の誘起には,乾燥種子に約10Kr程度のγ線を照射するのが効果的であろうと推定した。