抄録
日本,中国,北米および欧州の栽培および野生の M.avensis, およびそれらの人為雑種の細胞遺伝学的研究を行なって,次の結果を得た。1。北米に分布する var. canadensis および東亜に分布する var. piperascens は,いずれも2n=96で8倍変種である。かつ,両変種間には,染色体の構造的変異は起こっていない。2.欧州に分布する var.agrestisおよび var.praecox は,共に2n=72で6倍変種である。3.var. canadensis と var. agrestis との間の雑種は,2n=84,PMCのMIに36II+12Iを示した。これは,2N=96の var. canadensis は,2n=72の var.agrestis に,12個から成る染色体組が1対添加して,天然に合成されたことを示す。4.北米で採集された2n=84の1系統(栄養系)はPMCのMIに36II+12Iを示した。これは,var.canadensis のごとき8倍変種と,不明の6倍変種との自然交雑によって生じた7倍雑種と推定した。なお, M. arvensis にしばしば見られる完全雄性不稔の現象は,葯の中で胞原細胞の分化するところ,すなわち,減数分裂の始まる前に起る,組織の早期崩壊に原因することを見出した。