抄録
単葉の特性と与えられた気象条件にもとづいて、葉群の光合成率を推定する試みが相当数なされてきた。植物側の変動要因として、葉の傾斜角度がBOYSEN JENSENの古典的研究以来注目されてきたが、本研究では特に葉面当りの葉窒素量に注目し、最高の葉群光合成をもたらす最適の葉面当り葉窒素量を、稲について試算した。葉面当り葉窒素量の多い葉は、土地面積当りの全葉窒素量が多いときに効果的である。多肥集約な栽培法は土地面積当り全葉窒素量を増やし、葉面当り葉窒素量の多い葉からなる葉群の光合成を増進するであろう。この葉面あたり葉窒素量の多い葉をもつことの有利性は、特に強光照射の場合に顕著である。一方、長い暑い夜は、夜間の呼吸ロスを多くするために、高い土地面積当り全葉窒素量と高い葉面当り葉窒素量とを組合せて持つことの有利性を幾分減少する。葉面当り葉窒素量の少ない葉は、土地面積当りの全葉窒素量が少ないときに効果的である。稲のような一年性の作物では、生育の初期には、土地面積当りの全葉窒素量はごく少ないので、葉面当り葉窒素量の比較的少ない葉の方が生育を促進し、そして生育後期に高い土地面積当り葉窒素をもたらす上で有利である。ただし、水の供給が十分でないときは、土地面積当りの葉窒素量の水準にかかわらず、葉面当りの葉窒素量の多い葉を持つことが水分バランスを保つ上で要求される。葉面当りの葉窒素量、土地面積当りの全葉窒素量、葉群光合成の3者の関係は、葉の傾斜角度、葉面積指数、葉群光合成の3者の関係に似ている。葉面当りの葉窒素量を増加することは、葉をより傾斜させ直立的にすることと似た効果を持ち、また後者によって前者を、前者によって後者をある程度まで補なうことができる。稲などのideotypes(理想型)を設計するに際しては、このような葉面当りの葉窒素量と葉の傾斜角度との相補的関係を考慮に入れなければならない。現在の日本の標準的な稲作の出穂期頃の葉面当り葉窒素量、土地面積当り全葉窒素量、照射光強度(光合成有効波長)は、それぞれの平均値で、1.16g/m2、5.99g/m2、1950kcal/m2/day前後である。強光条件下で、さらに進んだ栽培法によって土地面積当りの全葉窒素量がより多くなった場合には、直立型の葉配置に加うるに葉面当り高窒素量を持つ葉群が脚光をあびることとなるであろう。葉面当り葉窒素量の多い葉で構成された直立葉配置型の葉群は、葉面当り葉窒素量の少ない葉で構成された水平葉配置型の葉群よりも、土地面積当り多くの全葉窒素を保持できる。このことは飼料作物で葉窒素についての高収量をうるのに関係があるであろう。