育種学雑誌
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水稲発芽過程におけるガンマ線照射障害の回復
井上 雅好長谷川 博堀 士郎
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1977 年 27 巻 4 号 p. 359-366

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抄録

種子の放射線感受性が酸素封入,窒素封入,貯蔵,温度処理等の照射条件により変化することはよく知られているが,さらにカフエイン等の代謝阻害剤処理によっても障害が増加することが明らかにされつつある。特に後者の場合にはこれら代謝阻害剤がDNA損傷の修復合成を抑制することにより生じるものであると説明されている。しかしVicia faba, HaplopappusあるいはChlamydomonasでは障害の回復が起るにも拘らず,そのような修復合成が認められないかあるいは非常に微量であるとの報告もある。著者らは,既に,ガンマ線照射した水稲種子をグルニトス溶液中で発芽・生育させることにより照射障害が減少することを報告したが,ここでは,気乾種子および浸漬種子にガンマ線を照射した後種々の代謝阻害剤処理を行なった時の照射障害の変更を調査して,発芽過程における照射障害の回復について検討した。水稲品種「銀坊主」の気乾種子(水分合最13.5%)および10,20,40時間浸漬種子に0~30KRの60Coガンマ線(104R/hr)を照射した後,気乾種子については5,10,20時間の,浸漬種子については10時間の代謝阻害剤処理を行ない,照射後10日目の幼苗草丈を調査した。使用した代謝阻害剤は呼吸,蛋白合成および核酸合成を阻害するものならびにキレート剤で(第1表),それぞれ,その処理濃度での非照射種子に対する生育抑制効果は認められなかった。なお種子の浸漬,後処理ならびに育成は25±1℃の温度条件下で行なった。FUdRおよびBUdR以外の阻害剤処理により照射障害が増加したが,その程度ならびに様相は阻害剤の種類あるいは浸漬条件により異たることが認められた。まず,気乾種子照射後のDNPおよび蛋白合成阻害剤処理では処理時間が長くなるとともに障害の増加が顕著にたり,例えば20KR照射区では,無処理区に比べ5時間区で約10%,20時間区で約40%の増加率を示した。しかしながらカフェインおよびキレート剤処理ではそのような処理時間効果は認められず,5,10,20時間区とも10%程度の増加にとどまった(第1図)。一方,浸漬種子照射ではいずれの阻害剤処理においても障害の増加率は気乾種子照射の場合よりも低く,かつ照射前浸漬時間の長い種子程その値が減少する傾向にあった(第3図,第2表)。以上の結果から,発芽過程初期における照射障害の回復は吸水期あるいは発芽準備期初期に起る生理的障害の修復によるものであること,生理的障害の修復はDNA複製後修復とともに発芽過程での照射障害の回復過程において重要な役割を果しているであろうことが推察された。

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