育種学雑誌
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集団育種法に関するシミュレーション: I.初期世代における組換えの進行
池橋 宏
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1977 年 27 巻 4 号 p. 367-377

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抄録

集団育種法の利点として,固定が進んでからの選抜の容易さや劣性遺伝子に支配されている形質が後期世代では高率でとらえられることなどが挙げられている。また初期世代のうちに可能な組換えが進行した後で,それを選抜に利用できることも集団育種法の利点と言える。しかしこの点の量的な評価は必ずしも容易ではない。この問題を選抜の具体的な場合に即して次のように設定することができよう。すたわち望ましくたい形質間相関が存在する場合に,無選抜で世代を進めると組換えの進行により形質間相関はどの程度に弱まるか。あるいは有望組換え個体の数は世代と共にどう変化するか。このような問題は常に育種家の関心事である。しかし関係する要因は多く,個々の実験から一般性のある答を得るのは容易でない。シミュレーションはこれらの問題を扱うのに適しており,その過程と結論は作物を栽培して行う実験の指針となるだろう。この論文ではまず組換え値と遺伝相関廉数の関係を通常の最的遺伝子の相加的モデルを基礎に検討し,両者の関数的関係を指摘Lた。次にこれを利用して多数の連鎖した遺伝子の確率的行動をもとにした,一種の2次元の準連続分布を構成し,与えられた組換え値ごとに,世代の進行にともなう遺伝相関係数の変化を求めた。その結果,遺伝相関係数は,大きな確率的変動をともなうため,組換えの進行の尺度としては不適当であるとみられた。一方高頻度の組換えから生ずる個体の数を,組換えの進行の尺度としてとらえると,この数はF2では極めて少いが,F4位までに急増することがみられ,とくに連鎖のある場合にこの傾向が顕著であった。これらの結果にもとづいて,F2での遺伝相関係数が0.3程度となる模型集団について,F2,F3もしくはF4で選抜を開始する選抜実験を試みた。その結果,遺伝的進歩,相関反応および有望組換え個体の数といった指標において,一般的にF4で選抜を開始した方が有利であると結論された。しかしその有利さは,機会的変動や環境変動などの働きで,必ずしも顕著でないことが推察された。

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