抄録
暖地型牧草のギニアグラスの生殖様式は,単為生殖(無胞子生殖で偽受精)であるため,この車種で交雑育種を進めるには,有性生殖個体が必要である。本研究では,主にアフリカ諸国より収集・導入したギニアグラスについて,有性生殖個体の探索を行なった。有性生殖の判定は後代検定によった。すなわち,袋掛けによる強制自殖および放任受粉により個体採種を行ない,親個体ごとに後代系統を育成,その系統内の変異を調査し,後代系統内に明らかだ変異が認められれば,その親個体は有性生殖を行なうものと考えた。調査形質は,穂首,節,上位下位葉葉面,上位下位葉鞘,小舌,願の着生部位における毛茸の発生程度で,無,有,甚の3段階で評価した。さらに,他の形質において著しい変異が認められた場合にも調査を行たい,変異を2段階で評価した。調査形質の評価から,系統内の個体をタイプとして分類し,タイプの数を変異性の基準とした。また,タイプに属する個体数も指標とし,最も多くの個体が属するタイプに着目し,そのタイプに属する植物体数を変異性の基準とした。以上の二つの変異性の基準から,系統内の変異の有無,大小を求め,その親個体が有性生殖であるかを判定し,さらに有性生殖の程度を推定した。親個体の後代検定で変異が認められた場合には,放任受粉種子を用いて,さらに次代での検定を行なった。86原系統234親個体の後代検定により,20個体に変異が認められた。このうち6個体は変異が大きく,後代個体にも変異を示す個体が出現することから,有性生殖と判定された。6個体のうち,4個体は有性生殖の程度が高く,2個体が低かった。有性生殖の程度の高い個体(高度有性生殖個体)の後代では,高度有性生殖個体が多く,有性生殖程度が低い個体(低度有性生殖個体)あるいは分離を示さたい個体も少数認められた。低度有性生殖個体の後代では,低度有性生確個体あるいは分離を示さたい個体が多く認められた。後代検定で変異の認められた残りの14親個体については,その変異は極めて小さく,また次代の検定でも系統内変異はほとんど認められず,有性生殖とは判定しえなかった。有性生殖6個体またはその後代個体について,花粉母細胞または根端細胞での観察により染色体数の同定を行なった。その結果,高度有性生殖4個体のうち,1個体は2n=32,2個体は2n=16,1個体は2n=18の染色体をもつことが明らかにされた。低度有性生殖2個体のうち,1個体が2n=32とされたが,残り1個体については同定されていない。ギニアグラスにおける有性生殖と単為生殖を用いた育種の可能性について考察した。