抄録
核遺伝子雄性不稔2種(メロン,カボチャ),細胞質雄性不稔5種(タマネギ,テンサイ,トウガラシ,ナス及びコムギ)並びに4植物種(トウガラシ,Datura, Ranunculus及びゴマ)においてMH,FW450,またはDaraponの如き除雄剤を用いて誘発した雄性不稔植物をそれぞれ材料として,正常型植物との間で締組織並びに小胞子の発育経過を比較観察した。雄性不稔植物の多くでは,蒲壁組織について,表皮並びに内皮の細胞が放射方向よりむしろ接線方向へ伸長し,内皮の繊維状発達も抑制される事が認められた。タベート組織ではほとんどすべての雄性不稔で何らかの異常が見出されたが,異常の起る時期や過程は材料により異なり,以下の4種の異常型に分けられた。(1)減数分裂期以前における崩壊(2)蒲の全発育期問を通じてタベート細胞の原形のままでの残存(3)胞原細胞期,減数分裂期,四分子期,小胞子期のいずれかに生ずるタベート細胞の異常肥大(4)多核の周辺偽変形体の形成と崩壊。一方,蒲隔組織にも,維管束系の分化の抑制,柔細胞の崩壊の徴候並びに一細胞内における種々の大きさの透明穎粒の集積が観察された。以上の結果から材料の起源を間わず,一般に雄性不稔植物に一認められるタベート組織の異常は維管束系の発育不全により生じた結果と考えられ,細胞内含有物は,おそらく小胞子形成の際に不要とたった物質の集積によるか,あるいは維管束系の異常により生じた産物と推定される。この様た事実は著者らが先に行った組織化学的観察に基づいた推論を支持する結果となった。