抄録
スウィートコーンの質的改良に関する基礎的知見を得るため,トウモロコシの胚乳形質に関与する遺伝子sugary-1(su1),brittle-1(bt1)およびそれらの2重劣性型舳su1bt1の炭水化物合成に及ぼす作用を明らかにする。su1をもつスウィートコーンの自殖系WI453,WI5125にbt1をもつデントコーンの自殖系Oh43を交雑し,6回の連続戻し交雑後に選抜されたスウィートコーンの遺伝的背景をもつ同質遺伝子系統を供試した。同質遺伝子系統間のF1雑種の自殖F2種子を受粉後16目目より2日おきに採取し,生体重,乾物重,還元糖,ショ糖,水溶性多糖類(WSP),澱粉の豊熟に伴なう消長を調べた。生体重は受粉後25日までいずれの遺伝子型でも増加し続けるが,それ以後のbt1,su1bt1での生体重の減少は著しく,顕著なしわ粒となった。su1では受粉後34目まで正常型よりも高い生体重を示した。su1の乾物重は正常型と同様に成熟期まで増加したが,37日以後の両者の差は明瞭となった。bt1,su1bt1の乾物重の増加は豊熟初期に停止した。su1,bt1,su1bt1の最終乾物重は正常型の78,40,29%であった。豊熟初期におけるbt1,su1bt1の還元糖およびショ糖含量はきわめて高く,受粉後22日ではsu1の約5倍のショ糖含量を示した。スゥィートコーンのtextureに関連する重要な成分であるWSPの含量はsu1で特異的に高く,豊熟初期のsu1ではショ糖が主にWSPに変換されることを示唆する。軌のWSP含量は正常型と同様にきわめて低かった。su1bt1のWSP含量は受粉後19日および22日の平均値で1粒当たり4.0mgであり,su1の約16%であった。su1bt1のWSP含量はbt1の約2倍であった。su1,bt1,su1bt1では澱粉合成が抑制され,最終的な澱粉含量は正常型の53,20,6%であり,正常型よりも著しく減少した。2重劣性型su1bt1結果は炭水化物の生成に関して,bt1,はsu1に対して上位であることを示す。これまで,スウィートコーンの育種は澱粉合成を抑制し,胚乳内に多量の糖を蓄積する効果をもつsu1,sh2などの遺伝子を利用して行なわれてきた。sh2はsu1に比較して,ショ糖含量を増大させることには有効であったが、su1に特徴的た成分であり,スウィートコーンのtextureに関連するWSPをほとんど含まない欠点がある。本研究において得られた結果から,糖含最を増大さ竜,かつWSPをある程度保持する新しいスウィートコーソを育成するための素材のひとつとして,2重劣性型su1vt1が有効であると結論した。