抄録
徴最元素の濃度を異にする2種類の培地を作り,イネカルス形成の生態種間および品種間差異を調査した。日本型の品種はいずれの培地でも安定して高いカルス形成能を示した。一方,日本型以外の品種でのカルス形成は,日本型に比較してやや劣り,品種間にばらつきが見られた。特にこのような傾向は低徴量元素培地で顕著であった。このことから,生態型や品種間で,カルス形成に対する微量元素要求・性に差異のあることが示唆された。 供試した品種の中には,良好なカルス形成を示す品種の他に,カルスの生長が特異的に不良で,極端な壊死が起こる品種や,生長がやや不良で,培養後期に褐色を帯びる品種があった。これらのことから,イネカルスの生長を抑制または促進する遺伝子の存在が推察される。カルスの外部形態にも,生態種間および品種間で差異が認められた。一般的に日本型と大粒種は比較的小さなカルス塊を作り,培地上に分散し易い(friable)傾向にあるのに対し,日印交雑種は,大きく引き締ったカルス塊を作り,培地上に分散し難い(compact)傾向にあった。インド型は,その中間的な性質を示すものが多かった。 両培地を通じ,カルスが誘導されたいで,正常な植物体に成長した個体が,特に日印交雑の品種に多く観察された。またカルス形成にともなって,カルス組織とは異なった,房状の根の集合体(root cluster)や,白く微細な毛状構造物(white fne hairs)の発生,淡黄色なカルス組織内に白色を呈する領域(white region)の出現,カルス組織からの根様構造物(root-like structUre)の分化などが,どの生態型でも観察された。