育種学雑誌
Online ISSN : 2185-291X
Print ISSN : 0536-3683
ISSN-L : 0536-3683
エチレンイミン処理によるイネの籾型突然変異の誘起と2,3の選抜指標の比較
朱 政治
著者情報
ジャーナル フリー

1982 年 32 巻 3 号 p. 266-273

詳細
抄録

小突然変異(micro-mutation)を対象とする育種に一おいては,その誘起頻度や方向性などをいかに正確に把握するかが重要な課題である。本報告は籾型を異にする水稲3品種を供試し,エチレンイミン(EI)処理によって誘起される籾型突然変異の頻度および方向性をいくつかの評価指標を用いて比較検討したものである。M2の籾長と籾幅の分散はCentury Patnaの籾幅を除いて増大しており,小突然変異の誘起が推察された。平均値では籾長と籾福間あるいは品種間でその移動(shifting)の大きさと方向性に差異がみられ,両形質は異たった遺伝的支配を受けていると考えられた。対照区とM2を比較Lたとき,籾長と籾幅間の相関係数に変化が認められたが,これは,EI処理が相関関係に変化を生ぜしめる効果があること,従って原品種と異なった籾型を選抜できる可能性があることを示唆している。変異限界外個体出現頻度についてみると,各処理区とも籾幅より籾長で高い値が得られた。また,マイナス方向へ外れる個体の頻度がプラス方向のそれより高かった。棄却楕円の方法では理論頻度や変異限界から外れた変異体の多くが楕円内に含まれてしまうと同時に,他の方法では変異体とは見做されない個体が楕円から外れる場合もあり,評価指標の違いによる差異が認められた。棄却楕円の方法は本報告で用いた標準化(chemical formula)による方法や変異限界の方法に比べて2変量を同時に評価できるという点で優れていると考えられた。棄却楕円から外れる個体の属する象限をみると,Century PatnaではM2,M3とも第2および第4象限に限られており,長幅比の大きいこの品種では大粒化もしくは小粒化への突然変異獲得は難かしいことが示唆された。これに対して長幅比の小さな他の2品種では長(細)粒化方向への変異が少ない傾向が認められた。Century Patnaで棄却楕円を外れたM2個体がM3でも同じ象限で楕円外の系統平均値を示す例がみられ,処理後早い世代にある程度の選抜が可能であることが示唆されたが,この点についてはさらに詳しい試験により確かめる必要がある。

著者関連情報
© 日本育種学会
前の記事 次の記事
feedback
Top