抄録
澱粉はα-1,4グルコシド結合より成る直鎖状のアミロースとα-1,4およびα-1,6グルコシド結合より成る分岐状のアミロペクチンとから構成される多糖である。胚乳澱粉のアミロースとアミロペクチンの構成比を変化させる遺伝子として,トウモロコシでは,amylose extender(ae),dull(du),sugary-2(su2),waxy(wx)が見い出されているが,イネでは,第6染色体(第I連鎖群)に座乗するモチ性遺伝子(wx)が報告されているにすぎなかった。筆名らは,胚乳の外観がモチ・ウルチ性の中間を示す半透明の突然変異体(dull)を作出した。本報告では,新たに作出したdull突然変異体の胚乳澱粉の性質および遺伝様式を調べた結果を述べる。 水稲品種農林8号の32P処理(β線内部照射)の後代で選抜したモチ変異体,dull変異体ならびに原品種の胚乳より,200メッシュ以下の澱粉粒を調製した。1規定の水酸化ナトリウム溶液中で糊化した澱粉を Pseudomonas amyloderamosa 由来のイソアミラーゼで処理し,α-1,6グルコシド結合を切断した。枝切りした澱粉をセファデックスG75で分画し,各画分の全糖量をフェノール硫酸法で,還元末端基数をPark-Johnson法の改変法により比色定量した。dull変異体と原品種のF1,F2,Bc1F1種子およびモチ変異体とdu11変異体のF2種子のアミロース含量をオートアナライザーを用いて一粒づつ比色定量した。また,上記3種の材料の間で正逆交雑し,F1種子の澱粉の性質をカラムクロマトグラフィーにより調べた。 dull変異体のアミロース含量は10・5%であり,原品種のアミロース含量の約50%に減少した。アミロペクチンの鎖長分布については両者の間で顕著な差はなかった。dull変異体の胚乳澱粉の性質は出穂後3週目までに決定された。