1987 年 37 巻 1 号 p. 29-39
コムギ(Triticum),ニキロプス(Aegilops)両属には細胞質に関して欠きた遺伝的変異が存在する.これをパンコムギ育種に活用する方策としては,これまで(1)雄性不稔細胞質利用による一代雑種の育成,及び(2)NC(核細胞質)ヘテローシス利用による固定型核細胞質雑種の育成,が試みられてきた、われわれは第3の方策として,異種細胞質に適合した新しい核遺伝子型を品種間交雑を通して作出することを考え,この可能性を探るための一連の研究を行っている. これまでに,1つの親(品種新中長)を共有する2コムギ品種,農林26号と農林61号の品種間交雑のF1,F2及びF3世代の実用的諸形質に対するAegilops5種の細胞質の影響を調べた(TSUNEWAKI et al.1985,YONEZAWA et al.1986).その結果,Ae. kotschyiとAe speltoidesの細胞質は雑種後代における遺伝的変異の拡大にある程度有用であるが,他の3種細胞質にはこのようた効果のたいことがわかった。.今回は,育成系譜を完全に異にする2パンコムギ品種,Chinese Springと農林61号について,両者のF1及びF2世代の諸形質に対するAegilops4種(前報の5細胞質のうち,Ae.longissima細胞質を除外)の効果を調査した.