育種学雑誌
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37 巻, 1 号
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  • 河瀬 真琴, 阪本 寧男
    1987 年 37 巻 1 号 p. 1-9
    発行日: 1987/03/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    ユーラシア各地から収集されたアワ83系統を供試系統(=)に選び,日本,台湾の蘭嶼,ベルギーの3系統をそれぞれテスターA,B,C(=)として交配した.交配にはピンセット乃至は吸入ポンプを用いて効率的に除雄を行たうことができた.試みた249組み合わせのうち224組み合わにおいて系統間雑種を得ることができ,その雑種第一代および供試系統の自殖個体の花粉稔性と種子稔性を調査した.雑種第一代の花粉稔性は8.2%から99,1%まで観察され様々た程度の不稔性が見られたが,同じ交配組み合わせから得られた雑種の個体間では不稔性の程度に欠きた差はなく,その不稔性の出現は遺伝的たものと考えられる.ほとんどすべての供試系統自殖個体の花粉稔性が75%以上であることから,雑種の花粉稔性においても暫定的に75%以上をもって正常と判定した.3種類すべてのテスターとの雑種を得ることのできた62系統はその花粉不稔性にもとづいて6種類の型に分類することができた.テスターA,B,Cのうち,特定のひとつのテスターとの雑種だけが正常な花粉稔性を示す系統をそれぞれA型,B型,C型と分類した.また,テスターAとの雑種もテスターCとの雑種も正常な花粉稔性を示す系統はAC型,テスターBとの雑種もテスターCとの雑種も正常なものはBC型と分類した、どのテスターとの雑種も正常な花粉稔性を示さない系統はX型と分類した.AB型あるいはABC型と分類されるようた系統は見い出されなかった.種子の不稔性にも同様の傾向が認められたが,不明瞭であり花粉不稔性の方が系統間の遺伝的分化をより直接的に反映していると考えられる.分類された冬型はそれぞれ特異的た地理的分布を示した.A型は日本,韓国,中国の系統に高い頻度で見られ,これらの地域のアワが互いに緊密な関係にあることが示唆された、B型は台湾本島山間部と日本の南西諸島の系統に,C型は特にヨーロッパの系統に,それぞれ集中して見い出された。遺伝的により未分化た段階にあると考えられるAC型とBC型の系統はそれぞれアフガニスタンとインドに分布している.X型の系統は台湾の蘭嶼やフィリピンのバタン諸島に集中して見られたほか各地に点在しており,さらにいくつかの型に分類できるかもしれない.このように冬型の分布は明瞭た地理的独白性を示し,各地域に特異的な地方品種群が成立していることが明らかとなった.冬型の地理的分布と穎果のフェノール着色反応性やエステラーゼ・アイソザイムの分布との間にいくつかの対応関係が見い出された、また,台湾から南西諸島へアワの導入された可能性がフェノール着色性の系統の分布から示唆されていたが両地域におけるB型系統の分布はそれを裏付けるものである.遺伝的により未分化と考えられるAC型とBC型の分布はアワの起原を考えるうえで非常に重要である、すたわち,アワがアフガニスタンからインドにかけての地域で起原し,遺伝的に分化しながら東西に伝播していった可能性が示唆される.この可能性はアフガニスタンの系統が草丈カミ低くきわめて旺盛に分けつし小型の穂をもっといった原始的特徴を示すこととも一致している.
  • 菊池 彰夫, 喜多村 啓介
    1987 年 37 巻 1 号 p. 10-16
    発行日: 1987/03/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    ダイズ種子中に多量に存在し,ダイズ油の酸化,および,不快青豆臭の発生に関与する酵素,リポキシゲナーゼの3種類のアイソザイム(L-1,L-2,L-3)の有無を検定するために,カロチン脱色反応を利用した新しい簡便な検定法が確立された.各アイソザイムのカロチン脱色試験は,以下のように行った.(1)試験I(L-3検定):検定種子の粗抽出液をリノール酸とカロチン共存下,20℃,PH6.8でインキュベートした.L-3を有する種子抽出液では,2~3分以内にカロチン色素の完全脱色が起こったが,L-3を欠く種子抽出液では脱色が全く起こらなかった(Table1).スズユタカ(Lx3/Lx3)×早生夏(lx3/lx3)の交雑F2種子中のL-3の有無とカロチン脱色活性の有無は完全に一致した.(2)試験II(L-2検定):検定種子の粗抽出液をアラキドン酸とカロチン共存下,20℃,PH6.8で3分間インキュベート後,メタノールを加えて反応を停止した.L-2酵素はL-1,L-3酵素に比べてアラキドン酸に一対し,特に強い活性を有すること(Table2)から,L-2を有する種子抽出液では速やかにカロチン脱色反応が起こったが,L-2を欠く種子抽出液では著しくその脱色活性が低下していた(Table1)、スズユタカ(Lx2/Lx2)×PI 86023(lx2/lx2)の交雑F2種子中のL-2の有無は試験I[により正確に判断された.(3)試験III(L-1検定):検定種子の粗抽出液をリノール酸とカロチン共存下,20℃,PH9.0で1分間プレインキュベート後,その混合物のPHを6.8に調整した.L-1酵素は,他の酵素(L・2,L-3)とは異なり,pH9.0付近に、リノール酸に対して高い活性を示すこと(Table2)から,種子抽出液がL-1を有する場合には,プレイソキュベート中(PH9.0)にリノール酸が消費されるため,カロチンの脱色に欠かせないし-3が働くPH6,8に調整した段階では,既に脱色反応は起こらなかった.一方,L-1を欠く場合には,pH6.8に調整後も共酸化に必要なリノール酸がそのまま残っているため,速やかに脱色反応が進行した(Table1)・スズユタカ(Lx1/Lx1)×PI 408251(lx1/lx1)の交雑F2種子中のL-1の有無は試験IIIにより正確に判断された.
  • 松尾 巧, 矢野 昌裕, 佐藤 光, 大村 武
    1987 年 37 巻 1 号 p. 17-21
    発行日: 1987/03/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    トウモロコシの炭水化物合成に関与する突然変異には,sugary,shrunkenならびにbrittleが知られている.近年,イネにおいてもアルキル化合物によってトウモロコツのsugaryおよびshmnkenに形態的に類似した突然変異が誘発された(SAT0H and OMURA 1981).またこれらの突然変異はsu,shr-s. shr-aおよびshr-2の4遺伝子によって支配されることが明らかとたった(YAN0 et al.1984)・ 本研究では,これらの突然変異遺伝子の胚乳の炭水化物組成へ及ぼす影響を明らかにするため,豊熟期における玄米の生体重および乾物重の推移ならびに還元糖,ショ糖,水溶性多糖(WSP)およびデンプン含量の変化を調査した.材料には水稲品種金南風の受精卵をメチルニトロソウレアで処理して得られたsu,shr-s. shr-aおよびshr-2変異体を用いた.
  • 西尾 剛, 山岸 博, 高柳 謙治
    1987 年 37 巻 1 号 p. 22-28
    発行日: 1987/03/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    キャベツ葉肉プロトプラストからの植物体再分化の効率を高めるために,プロトプラストの分裂,カルス形成,芽分化に及ぼすホルモンの効果を検討した.そして,各段階における培地のホルモン組成が芽分化に及ぼす効果を明らかにした. 品種“ヤング"を,6x6×9cmのプラスチック容器中で無菌的に栽培し,2~3cmの成熟葉からプロトプラストを得た.葉を約1mm幅に細断し,酵素液(0.1%ペクトリアーゼ,0-5%セルラーゼオノズカRS,0.5Mマンニトール,CPW塩)に入れ,25℃,60spmで往復振どうした.酵素処理45分後及び未分解葉片の30分酵素処理によりプロトプラストを得,CPW塩を含む0.5Mマンニトールでプロトプラストを洗った.1×105個/mlの密度で液体培地に懸濁し,20℃散光下(約1001ux)で培養した.培地はオーキツソとしてNAA又は2,4-D,サイトカイニンとしてカイネチンを含む改変MS培地(NH.NO.200mg/l以外は1/2濃度のMS無機塩,MSビタミン,1%ショ糖,0.5Mマンニトール)で培養した・培養1週間ごとに新しい培地を添加し,培養3週間目に各種ホルモン濃度の改変MS寒天培地上に流した.さらに1ヵ月後1~2mmのカルスを異なった組成のMS培地に移植し,20℃,3.000luxで芽分化を促した.
  • 米澤 勝衛, 常脇 恒一郎, Koichiro TSUNEWAKI
    1987 年 37 巻 1 号 p. 29-39
    発行日: 1987/03/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    コムギ(Triticum),ニキロプス(Aegilops)両属には細胞質に関して欠きた遺伝的変異が存在する.これをパンコムギ育種に活用する方策としては,これまで(1)雄性不稔細胞質利用による一代雑種の育成,及び(2)NC(核細胞質)ヘテローシス利用による固定型核細胞質雑種の育成,が試みられてきた、われわれは第3の方策として,異種細胞質に適合した新しい核遺伝子型を品種間交雑を通して作出することを考え,この可能性を探るための一連の研究を行っている. これまでに,1つの親(品種新中長)を共有する2コムギ品種,農林26号と農林61号の品種間交雑のF1,F2及びF3世代の実用的諸形質に対するAegilops5種の細胞質の影響を調べた(TSUNEWAKI et al.1985,YONEZAWA et al.1986).その結果,Ae. kotschyiとAe speltoidesの細胞質は雑種後代における遺伝的変異の拡大にある程度有用であるが,他の3種細胞質にはこのようた効果のたいことがわかった。.今回は,育成系譜を完全に異にする2パンコムギ品種,Chinese Springと農林61号について,両者のF1及びF2世代の諸形質に対するAegilops4種(前報の5細胞質のうち,Ae.longissima細胞質を除外)の効果を調査した.
  • 鵜飼 保雄
    1987 年 37 巻 1 号 p. 40-53
    発行日: 1987/03/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    自殖性2倍体作物の2純系間交配において,染色体当りの乗換数を種別こ変えた場合に,交配後の自殖世代で染色体または全ゲノムの遺伝子が何世代目でホモ接合になる(完全に固定する)か,および両親の原連鎖ブロックが固定世代までに幾つのブロック切断されるかをモンテカルロ・シミーレーションによって調べた.染色体.あたり乗換数を毎世代一定(1,2,3,4,6,10),または,変化させた計10通りの条件に対して,毎世代の雌雄減数分裂における乗換の位置,腕間分布,関与染色分体の選択を一様擬似乱数で決めて自殖世代を模擬し,一対の相同染色体が固定するまで世代を繰りかえした.染色体あたり乗換数はPoisson分布ではなく一定とした、また,同じ染色体の腕間の乗換数は同数になるように定めた.各条件につき1000(世代間乗換数一定)または300試行(乗換数不定)とした.
  • 山口 裕文
    1987 年 37 巻 1 号 p. 54-65
    発行日: 1987/03/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    栽培植物の野生系統や雑草性系統の多様性の解析は在来品種の変異の由来の理解の手助けとなる.ダイコンが野生化したと考えられているハマダイコン(Raphanus sativus L. var. raphanistroides MAKINO)の根生葉はふつう羽状全裂(Pinnatifid:本文ではPFと略す)であるが,時に,頭羽状で切れ込みの無い葉(Lyrate:LY)や再羽状に深裂する葉(Pinnatisect:PS)が見られる(Fig,1).葉形に関する地理的変異性を明らかにするために,東京大学,東京都立大学,京都大学および国立科学博物館所蔵のハマダイコンの=葉標本および日本各地の15の自生地から集めた種子より育成したハマダイコンと,13の自生地におけるハマダイコンを調査した(Table1). ハマダイコンは日本列島に広く分布し,北海道から韓国,台湾.硫黄島の磯浜のほかに東北地方の内陸と琵琶湖の浜に分布する(Fig.2).=葉標本では頭羽状葉は日本列島の4ヶ所から,再羽状深裂葉は済州島から発見された.種子を用いた育成実験では頭羽状葉は14の地域個体群で0.1%から24.9%の頻度で出現し,再羽状深裂葉は1地域個体群から0.58%の頻度で出現した(Table3).自生地では総ての地域個体群で頭羽状葉が見られ,その頻度は0.03%から21.96%であった(Table4).再羽状深裂葉は調査の対象とした地域個体群からは発見されなかった.
  • 山川 理, 坂本 敏
    1987 年 37 巻 1 号 p. 66-74
    発行日: 1987/03/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    カンショの種子播用品種を育成するため,露地開花性系統の自然交配集団を用いて,種子播適性に関する循環選抜反応を見た.支柱栽培において採種粒数の多かった露地開花性系統から得た多交配種子をC0(Cはサイクルの略)として,家系別に種子播栽培した.ついで種子播適性として重要な形質であるアール当たり総いも重と切干歩合により家系選抜し,さらに選抜家系内で種子根の特性による個体選抜を行い,次世代の母本栄養系集団とした.このようた循環選抜を2回繰返した結果,サイクルが進むにつれて結実性の集団平均は増加する傾向を示した.アール当たり総いも重の集団平均はC1で低下したがC2で増加し,C0を上まわる153.8kg/a(サイクル当たり18.2kgの増)に達した.切干歩合はサイクルが進むにつれて減少し,C2の集団平均は31,7%(サイクル当たり1.1%の減)になった.また母本栄養系集団の挿苗栽培におけるアール当たり総いも重は,サイクルが進むにつれて増加したが,切干歩合は減少Lた.種子播適性に係わる形質の集団内の遺伝的変異性については,発芽歩合以外のすべての形質でC0よりC2のほうが小さくたったが,依然として遺伝分散は有意に大きかった.以上の結果から,本研究で用いた修正一穂一列法による循環選抜は,カンショの種子播栽培の収量性については集団内に充分在ヘテロ性を維持しつつ平均値を高めていくのに効果的であるが,切干歩合についてはより強度の家系選抜を行うか,あるいは選抜家系内の個体選抜の段階における選抜法を改善する必要があるものと結論された.
  • 加藤 浩, 生井 兵治
    1987 年 37 巻 1 号 p. 75-87
    発行日: 1987/03/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    自殖性作物であるイネで,F1種子の大量採種を可能とするには,種子親となる雄性不稔系統の自然交雑率を飛躍的に高める必要がある.そこで自然交雑率に関係する花器形質について温帯日本型の日本型育成品種,在来品種,ならびにOKA(1958)とOKA and CHANG(1962)の分類による熱帯日本型を対象に調査を行った.また,農林水産省生殖質保存管理室の種子保存目録の中の品種名のあとに(Majiri品種)と記載されている日本型在来品衝に着目した.種子親の花器形質として頴花あたり露出柱頭数(2本ある柱頭について開頴時の露出柱頭数),花粉親の花器形質として穎花から抽出した直後の葯の花粉残存数を調査した,各花器形質について有意な品種間差が見られた.穎花あたり露出柱頭数は,熱帯日本型は平均0.52本で最も多く,1.0本以上の品種も見られた.一方,温帯日本型では値の小さい品種がほとんどであるが。(Majiri)の記載がある在来品種の平均値は(Majiri)の記載がない品種より大きく,さらに前者には水口濡(N0.72)のように0.5本以上の欠きた値を示す品種がいくつかあった.したがって,穎花あたり露出柱頭数が自然交雑率と深くかかわっていることが示唆された.また,葯抽出時の花粉残存数は,熱帯日本型のManggarsi I(No.129)が最高で葯あたり1,736粒であり,温帯日本型の日本在来品種でも1,000粒を越える品種が多数みられた.以上,温帯日本型でも形質に分離が生ずる雑駁な品種には自然交雑率を高め得る花器形質が存在するので,これらの品種を利用すれば花器形質の改良が可能である.自然交雑率をさらに高めるためには,交雑不稔を生じるなどの問題はあるが,熱帯日本型の有用花器特性を遺伝子給源として利用できると思われる.
  • 佐藤 洋一郎
    1987 年 37 巻 1 号 p. 88-97
    発行日: 1987/03/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    イネの到穂日数は,それ自身が適応形質として,あるいは季節的隔離機構としてイネの分化,伝播や適応性に深く関わってきたばかりでなく,稈長などの形態形質とも強く相関する.本研究では,イネの稈長の遺伝変異がその固有の遺伝子によって支配される部分と到穂日数の変異によって支配される部分からなるとの発想にたって,アジア各地の栽培イネ93品種を4つの播種にわたって栽培したデータを解析し,稈長の変異を到穂日数による部分(回帰による成分)と固有の遺伝子による部分(回帰からの偏差)とに分割した.また稈長および到穂日数について多様な遺伝的変異を含む雑種集団を用いて桿長の変異のうち固有の遺伝子による部分の遺伝解析を行った.品種集団では,各播種期における回帰の品種間差,および各品種における回帰の播種期間の差が比較できた一共分散分析の結果,回帰係数には播種期間でも品種間でも差が見られなかったこと,およびそれらの播種期間の平均値(0.48)と品種内回帰係数の平均値(0.42)がほぼ等しかったことから,到穂日数の稈長にたいする影響は特定の遺伝子や環境条件に固有た作用ではなく,発育的た因果関係によるものと考えられた.雑種集団のデータから,稈長そのものの頻度分布では検出されなかった1個の主働遺伝子の効果がその到穂日数にたする回帰からの偏差に現われていることがわかった.稈長など複雑な発育過程ののちに完成される形質では,遺伝解析にあたって,到穂日数の効果を考慮することが重要であるが,それには回帰からの偏差を解析するのがよいと思われる.
  • 生井 兵治, 加藤 浩
    1987 年 37 巻 1 号 p. 98-102
    発行日: 1987/03/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
    イネ一代雑種種子の経済的た大量採種を可能とする方策の一つは,大量の花粉を空中に放出する花粉親と容易に他家受粉する種子親を用いて,結実率を飛躍的に高めることである.そこで,種子親・花粉親の栽植比や栽培様式を確立するための基礎として,種子親が受精・結実するのに必要な他家受粉花粉粒数ならびに,これだけの花粉が受粉するのに要する時間を明らかにしようと試みた.約1時間開穎し柱頭が穎花外に露出する穎花の割合が約20%の遺伝子雄性不稔個体(原品種ニホンマサリ)を用い,大量の空中花粉が浮遊している水田中に開穎個体を配置し,配置時間の長さたらびに検鏡までの時間を様々に変えて,柱頭上の花粉粒数と受精・結実との関係を調査した.その関係をみるには,開穎個体を空中花粉に曝Lてから48時問後の穎花で調べるのが最適であった.その結果,雌蕊当たり1粒の受粉でも60%以上が受精・結実し,2粒以上では約90%が結実した.従来,イネの受精・結実に必要た受粉花粉粒数は10~20粒であるとされているが,これは低温障害との関わりで気温12~15℃下での調査であり,かたりの不稔花粉が含まれていたものと思われる.したがって,ある程度の花粉障害を考慮しても,イネの結実には1花当たり3~4粒が受粉されれば充分である、一方,受粉に要する時間についてみると,供試雄性不稔系統では雌蕊の80%に2粒以上が他家受粉するのに要する時間は30分,3粒以上では45分間であった.以上のことから,空中花粉が多くとも,開頼時間は30分以上であることが望ましい.
  • 小崎 格
    1987 年 37 巻 1 号 p. 103-108
    発行日: 1987/03/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
  • 高柳 謙治
    1987 年 37 巻 1 号 p. 109-112
    発行日: 1987/03/01
    公開日: 2008/05/16
    ジャーナル フリー
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