野生四倍性コムギの起原と種の分化を宿主寄生者相互作用に基づいて考察する目的で,イラクのスライマニア地方で採集されたコムギ赤さび病菌1菌糸(Mesopotamia race)を用い,野生四倍種の赤さび病感受性を解析した. 野生四倍種は,現在,パレスチナ,トランスコーカサス及びメソポタミアに隔離されて分布するが,これらの野生四倍種のMesopotamia raceに対する感受性をみると,パレスチナのT.dicoccoidesは例外なく罹病性で,一方,アルメニアのT.araraticumはすべて高度抵抗性を示した.これら既存種が安定た反応を示したのに対して,メソポタミアの両種は抵抗性から罹病性まで変異に富む感受性を示し,とくに広域種のT.araraticumでその傾向が顕著であった.これらの事実から,メソポタミア,とくに変異が集中するサク回ス山岳地帯は野生四倍種の赤さび病感受性に関する遺伝子中心地であり,したがって,その感受性の見地から四倍性コムギの発祥地であることが推定された. 以上のことから,病原菌に対する感受性の分析が,宿主としてのコムギ属の系統発生的分化を追究する上で,方法論的に極めて有力であることが実証された.