育種学雑誌
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宿主特異的毒素によるニホンナシ黒斑病耐病性突然変異体の選抜
真田 哲朗
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1988 年 38 巻 2 号 p. 198-204

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抄録

ニホンナシの主要栽培品種である二十世紀は黒斑病に羅病性であり、病原菌の感染により葉および果実に黒斑病徴を示し、その防除には多大の労力を要している。この病原菌によって分泌される宿主特異的毒素は病原菌の感染によって生ずる黒斑病徴と同様に宿主植物に壊死斑(黒斑)を形成する。最近、この毒素は単離され、その構造が決定されている(NAKASHIMA et al.1978)。1981年に放射線の緩照射を続けた二十世紀から殺菌剤の散布回数を減らすことによって黒斑病耐病性突然変異体(γ-1-1)を選抜した(SANADA et al.1988)が、さらに多数の耐病性突然変異体を選抜するには簡易選抜法の確立が必要であり、宿主特異的毒素の1つであるAK-毒素Iを用いた簡易選抜法を検討した。選抜条件を検討するため、耐病性品種の長十郎、罹病性品種の二十世紀および中位の耐病性系統のγ-1-1を用い、各品種・系統の新梢枝の先端の展開直後の第1葉から第10葉の葉より直径7mmの葉片を切り取り毒素処理を行った。毒素処理は9cmのシャーレ内にろ〓紙を二重に敷き、1、0.1、0.01ppmの各濃度に調整した毒素の水溶液を6ml加え、各葉位の葉片を〓紙上に配置し25℃に2日間保ち黒斑病の判定を行った(第1、第2図)。耐病性品種である長十郎は第1葉から第10葉まで、1、0.1、0.01ppm濃度の毒素処理で無病徴であったのに対して、罹病性品種の二十世紀では1ppm処理で第1葉から第10葉まで葉片全体が壊死し、0.01ppmの低濃度処理でも第1葉から第10葉まで明らかな黒斑病徴を示した。耐病性突然変異体のγ-1-1では高濃度の1ppmの毒素処理で第1葉から第3葉でやや強い黒斑病徴を示し、O.1、0.01ppmの低濃度処理で若い第1葉から第3葉でわずかに黒斑病徴を示したのを除いて黒斑病徴は認められなかった。この結果で二十世紀と中位の耐病性を示すγ-1-1との間で明確な差を生ずる条件を用い、簡易選抜法は次の手順で行った。1.シャーレ内に二重に〓紙を敷き、0.1ppmの毒素溶液を5ml加える。2.各新梢枝の第4葉に通し番号を記入する。3.番号順にリーフパンチで切り取った葉片を〓紙上に配置する。4.0.1ppmの毒素溶液を1ml加えて、25℃に2日間保ち病徴を判定する。この手法によると1人で1日に約500枝の検定が可能であった。1983年にガンマーフィールドの60Co線源から40m(30R/日)~70m(9R/日)に二十世紀の接木苗を各区21~27本定植して緩照射を続け、毎春、枝の基部から5cm上で切り返しを行った。40mに定植の高線量率区では分岐枝および盲芽の放射線障害が認められ、枚数も低線量率区に比べて減少したが、50~70mの照射区ではこれらの障害は認められなかった。1985~1986年に前述の簡易選抜法を用い、2,439枝を検定し、2枝の耐病性突然変異体を選抜した(第1表)。突然変異体の誘発頻度は50m(18R/日)で1.6×10-3、60m(12R/日)で1.3×10-3であり、最適線量率は12R/日~18R/日となり、緩照射によるモモの葉色突然変異体の誘発における最適線量率(SANADA et al.1987)とほぼ一致した。本選抜法で選抜された2系統はγ-1-1と同様に黒斑病に対して中位の耐病性を示したが、圃場条件下の観察では原品種の二十世紀に黒斑病が激発したのに対して、この2系統はγ-1-1と同様に黒斑病の発生は認められなかった。

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