育種学雑誌
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ダイズの高リノレン酸含量突然変異体B739のリノレン酸含量の遺伝
高木 胖砥綿 査一Saichi Towata
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1994 年 44 巻 3 号 p. 267-270

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抄録
ダイズBay品種のX線照射した後代から,これまでのダイズ品種にはみられない高リノレン酸含量となった突然変異体B739を得た(Takagi et al.1989)。本報は,この高リノレン酸含量となる突然変異体B739と現品種Bayの交雑から,F1,F2個体の脂肪酸組成をF2,F3種子について分析し,高リノレン酸含量の遺伝様式を解析した。Tab1e 1にB739と現品種Bay,正逆交雑F1の脂肪酸組成を示した。B739のリノレン酸含量は12.6%と高く,Bay品種のリノレン酸含量は8.8%と低い。F1のリノレン酸含量のB739×Bayでは9.4%,Bay×B739では8.9%とBay品種の含量と同じであり,正逆交雑では差はなく,F1ではBayの低リノレン酸含量が優性を示した。次に,F2の正逆交雑をまとめたリノレン酸含量の分離を個体別の頻度分布で示した(Fig.1)。F2世代のリノレン酸含量の分離は1O.4~1O.8%を境に高低の含量に分かれた。高含量は10.8~14.6%,低含量は7.O~10.4%の分布にあり,高含量はB739の頻度分布に,低含量はBayとFlの頻度分布に一致した。高低の含量を示すF2の個体の分離は,B739×Bayでは正常のリノレン酸含量となるBayの個体が144個体,高リノレン酸となるB739の個体が49個体であり,Bay×B739では正常が32個体,高含量が9個体と,正逆交雑では差はなく,全体では正常が176個体,高含量が58個体の高リノレン酸が劣性となる3:1の分離がみられた(Table 2)。これらのことから,ダイズのリノレン酸含量について,Bayのリノレン酸含量は,高リノレン酸含量となる突然変異体B739に関して一対の対立遺伝子Lin-linhが関与するものと考えた。この高リノレン酸となる突然変異体B739は高リノレン酸含量となるばかりでなく,種子の脂質含量について,親品種Bayの17.7%に比べて9.5%と約半分の脂質含量であった(Takagiet al. 1989)。この低脂質含量について,F1及びF2の分析からリノレン酸含量と同様に脂質含量の遺伝を調べた。F1はBayと同じ正常な高脂質含量で,F2は正常の高脂質含量と低脂質含量の個体が3:1に分離した。また,F2世代で分離した低脂質含量の個体の全ては高リノレン酸含量であったことから(Fig. 2),B739の低脂質含量は高リノレン酸含量と同じlinh遺伝子に支配されるものと推定した。
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