育種学雑誌
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子房輪切り培養によるLilium × elegance と L. Iongiflorum との雑種の作出
Amaury-M. Arzate Fernandez谷坂 隆俊中崎 鉄也池橋 宏
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1998 年 48 巻 1 号 p. 71-75

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抄録
ユリ属植物の遠縁交雑では,雑種胚は形成されるものの,その後の発育が制限されることが多く,雑種植物の育成はきわめて困難な場合が多い.本研究では,近年,Lilium属の遠縁交雑雑種胚の救済に効果が知られている子房輪切り培養を用いて,従来,不親和性交雑と考えられていたLilium × elegance と L. Iongiflorumの雑種植物の作出を試みた。母本のL.× eleganceの花柱を切断して受粉した後,5,10,15,20,25,30,35,40および45日目にそれぞれ子房を輪切りにして外植片とし,それらをMurashige and Skoog(MS)改変培地に置いた。MS改変培地は,MS基本培地から硝酸アンモニウムを除き,6%ショ糖,50mg/l酵母抽出物および0.25%gelriteを添加したものとした(pH6.3)。また,植物ホルモンはいっさい添加しなかった。胚の発芽は受粉後35日目に培養を開始した処理区(35DAP)でのみ観察され,他の処理区では全く観察されなかった。また,35DAPにおける発芽率は2.5%であった。発芽胚を,培養開始後1~3ヵ月に,1.5%ショ糖,0.25%gelriteおよびO.2%活性炭素粉を添加した1/2濃度のMS改変培地(pH5.8,植物ホルモン無添加)に移したところ,最終的に(7~8カ月後),再分化植物を7個体獲得することができた。これら個体の雑種性を核型,アイソザイムおよびPCR分析によって調査したところ,いずれもL.× elegance と L. Iongiflorum間の雑種であることが明らかになった。以上の結果とこれまでの事例を基に,子房輪切り培養は従来困難であったLilium属の遠縁交雑雑種の作出に有効な方法であると結論した。
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