抄録
イネ葯培養における再分化能の遺伝についての解析を行った。とくにカルスの継代の影響を受けない再分化能を検討するため,継代培養を必要としない一次成苗法を用いた。176組合せのF1についての葯培養の結果,葯当たりの再分化率は,幸風との近縁係数との間に正の相関関係(5%水準),農林1号との近縁係数との問に負の相関関係(5%水準)が認められた。そこで,日本晴,その現品種の幸風,コシヒカリ,その親品種の農林1号を用いた4×4総当たり交雑についての葯培養を行った結果,培地の種類によって再分化に対する遺伝子の効果に差異がみられた.とくにN6を基本培地として,2,4-Dを0.1μM,NAAを5μM,ショ糖を70g/l,グリシンを2mg/l含む培地では,VrとWrとの関係から,低い再分化能が優性であり,再分化能の高い日本晴が完全劣性親,再分化能の低い農林1号とコシヒカリは完全優性親と判断された。再分化能に対する遺伝子の相加的効果,平均及び親別の優性効果が認められ,エピスタシスは認められなかった。正逆交雑間には差異が認められず,細胞質の影響はないと考えられた。カルス形成ではどの培地においても,遺伝子の効果が認められなかったことから,再分化と脱分化には異なる遺伝子が関与していることが示唆された。とくにアラニンを含む培地では,全体に再分化率は向上し,再分化に対する遺伝子の効果には有意差が認められなかったことから,培地により再分化能を発現する遺伝子,あるいは遺伝子の効果に差異が生じることが示唆された。