抄録
モリブデンコファクター(MoCo)は,硝還元酵素(NR)やキサンチン脱水素酵素(XDH)といったニトロゲナーゼ以外の全てのモリブデン酵素の活性発現に必要不可欠な補欠分子族であるが,高等植物のMoCo生合成過程はまだよく分かっていない。筆者らは塩素酸耐性を指標として2つのイネMoCo欠失突然変異体C290及びC384(野生型は共にIR30)を選抜した(図1)。これら2突然変異体の亜硝酸元酵素(NiR)活性及び硝酸含有量はむしろ野生型よりも高かったものの(表1,表2),NR活性及びXDH活性は野生型であるIR30のそれらを大きく下回り(表1,図2),これら2突然変異体はMoCo欠失突然変異体であることが確認できた。またこれらの変異体に生じた突然変異は共に単因子劣性であった(表5)。イネではMoCo生合成過程に関与する遺伝子座して現在までにcnx 1及び.cnx 2の2つが同定されている。筆者らはこれらの遺伝子座に突然変異を生じた系統であるC27(遺伝子型:cnx 1/cnx 1,野生型はlR30)及びC25(遺伝子型:cnx 2/cnx 2,野生型はIR30)と今回選抜したC290及びC384を相互交雑し相補性解析を行ったところ,従来までに報告されているcnx 1及びcnx 2遺伝子座に加えて新たにcnx 3遺伝子座を同定することができた(表6,図3)。cnx 1遺伝子座に突然変異を生じたイネ突然変異体C27は,O.5mMモリブデン酸を生育培地に投与することによってNADH-NR活性が野生型レベルにまで回復することが知られている。本実験においてC290及びC384が生育する培地に0.5mMモリブデン酸を投与したところ,これら2つの突然変異体のNADH-NR活性は回復しなかった(表3)。以上の結果より今回我々が同定したcnx 3遺伝子座は,イネのモリブデンコファクターは生合成過程においてcnx 1遺伝子座とは異なったステップをコードしているものと推察される。