抄録
異種ゲノムから遺伝子を導入するために,Oryza punctata Kotschyの染色体2,4,7,9を有する異種一染色体添加系統(MAALs)の後代から,O.punctata Kotschyの染色体2と7のいずれかの染色体腕ならびに染色体9の短腕を過剰に有する3種類の異種一染色体腕添加系統(MtAALs),および染色体4の短腕全長と長腕基部の異質染色質領域を過剰に有する1種類の異種一断片染色体添加系統(MaAAL)を選抜した。体細胞染色体分析の結果から,これらのMtAALsおよびMaAALを,それぞれMtAALs2,7,9SおよびMaAAL4S4Lと表記した。MtAALsおよびMaAALの形態的特徴,種子稔性,および過剰染色体の伝達率を,それぞれが対応するプライマリートリソミックスおよびMAALsと比較したところ,形態的特徴についてはMtAAL2とMaAAL4とが対応するプライマリートリソミックスおよびMAALsに類似していたが,MtAAL9Sは正常二倍体に類似していた。一方,MtAAL7の形態は染色体7の短腕に関するアイソトリソミックスの特徴に類似していた。MtAALsおよびMaAALの種子稔性は,それぞれが派生したMAALsと比較して高く,過剰染色体の伝達率は,それぞれが派生したMAALsと類似していた。MtAALsおよびMaAALにおける添加染色体の一方の腕あるいは染色体領域の欠失が,それらの種子稔性を親のMAALsと較べて回復させたことは,栽培種の遺伝的背景に添加された野生種の染色体断片が短かければ配偶子形成から受精にいたる生殖過程において遺伝的不均衡の影響が小さいことを意味している。MtAALsとMaAALの花粉母細胞の減数分裂核のほとんどが12II+1I(染色体腕または断片染色体)の染色体対合様式を示したことから,これらの端部動原体型染色体および断片染色体がOryza punctata Kotschyに由来することが確認された。MAALsでは減数分裂期にトリソミックスと比較して高い頻度で一価染色体が生じ,復旧核に取り込まれなかった遅延染色体が誤分裂に引き続いて染色体切断を起こすために端部動原体型染色体および断片染色体が生じたと考えられた。