抄録
カンショおよびその近縁野生種110系統を供試して,花器,碧片および茎葉に関する54形質を調査し,主成分分析法により,その変動様相を明らかにした。その結果,花冠の大きさおよび形状,尊片の大きさ,角および質,植物体の毛茸の多少,花冠内底部の白い星形並びに外部蜜腺が主要な変動要因であり,分類上の重要形質であることを明らかにした.さらに,主成分スコアの散布図から,供試系統が大きく3つのグループに分かれ(Fig.1),これらがほぼこれまでの分類と一致することを認めた。しかし,カンショと最も近縁である I. trifidaはカンショとともに大きな一群をなしており,倍数性が2倍体から6倍体へと高まるにつれて,カンショに近づく傾向が認められたものの,異なる倍数性の系統が部分的に重なりあっていた。このことから,この2種は形態的に明確に区分することは困難であると判断された。このため,RAPD法によりDNAレベルでの変異の解明を試みたが、この場合も2種はある程度は異なるクラスターに分けられたものの,完全ではなかった(Fig.3)。以上の結果から,カンショと I. trifidaは遺伝的に極めて近縁であり,遺伝子の交流を自由に行う一つの大きな群を構成していると考えられた。