抄録
社会的関係の形成の困難さは,精神障害を特徴付ける重要な行動表現型であり,診断基準として用いられてもいる。実験動物として脳研究あるいは創薬に用いられるマウスも哺乳動物であり,母親から養育ケアを受けて成長する点は人間に類似している。筆者らも含め多くの研究が,乳仔期・幼若期における母子分離経験や社会的隔離経験が,将来のマウスの社会行動,情動および認知機能に影響を及ぼすことが報告されている。筆者らは最近,映像分析をもとにした社会行動解析システムMAPSを開発した。MAPSシステムにより,思春期における社会的隔離経験が,将来のマウスの社会的近接性に影響を及ぼすことを明らかにした。マウスの社会的近接性解析は,社会的相互作用の生物学的基盤を解明するための実験モデルになると期待される。