統合失調症の神経病理学的研究は100年以上前からなされてきた古典的な手法である。その観察所見は統合失調症における神経細胞の分化・遊走,神経突起の分枝・伸長,シナプス形成などの発達段階における異常を示唆し,統合失調症の病態解明に寄与してきた。一方で,統合失調症における神経病理学的研究では,統合失調症という臨床診断に伴う生物学的な異質性や生涯にわたるさまざまなイベントの影響から,得られた所見が実際の疾患に特異的であることを明確化することに度々困難が生じることがあった。そのため,筆者らはまれなゲノム変異を有する統合失調症に着目して観察を行い,遺伝学的な情報も加味することによって,より疾患特異的な神経病理学的所見を見いだすことを戦略の一つとして行っている。統合失調症の病態の解明のためには,単に死後脳を集積するのみならず,ゲノム解析情報も備わったブレインバンクの拡充が望ましいと考えられる。