抄録
本研究は,認知症を伴う高齢者臨床に携わる心理職を対象に質問紙調査を行い,意思決定能力評価の観点を含めた業務実態および現場で直面した課題を明らかにし,さらに,教育プログラムの内容や受講形態などのニーズを把握することを目的とした。本調査は2016年11月から2018年2月の間に,郵送式とメールの併用によって行われた。88名から得られた回答を分析した結果,認知症高齢者に携わる心理職の業務実態としてアセスメントの割合が86名(97.7%)と最も高く,そのうち38名(44.2%)が意思決定能力の評価に携わった経験を有するという結果が得られた。業務上の悩みについては81名(92.0%)が経験していることが示され,内訳としてはアセスメントの具体的な実施方法のみならず,その後のフィードバックの内容や方法,他職種との連携・情報共有の仕方について課題と感じている意見が多く挙げられた。また,教育プログラムに対するニーズの高さがうかがえ,とくに所見作成など結果のフィードバックまでを含めた神経心理アセスメントスキルや,精神症状や認知症に関する医学的知識に関しての期待が高かった。心理職の職能をより質の高いものにして社会に還元するために,実践的かつ利便性の高い教育プログラムが求められていると考える。