高齢者のケアと行動科学
Online ISSN : 2434-0553
Print ISSN : 1880-3474
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  • ─ステップ式仮説検証型事例検討による実践報告─
    田中 真理, 榎本 尚子, 大川 一郎, 成本 迅, 蛭川 康子, 蛯名 真利子, 金田一 文子, 立崎 洋子
    2023 年 28 巻 p. 17-36
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2024/01/08
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は地域密着型介護老人福祉施設に入居している重度認知症高齢者の示すBehavioral and Psychological Symptoms of Dementia( BPSD)である「介護抵抗」と「徘徊」に対して,ステップ式仮説検証型の枠組みに 従い,対象者の多面的理解と仮説に基づいた介入を実施し,その効果を検討したものである。「介護抵抗」で は,その背景として認知症による認知機能の低下に起因するトイレ介助場面での不安・緊張の高まりと身体的 苦痛が想定され,トイレ介助時の対応の統一を図った。「徘徊」の背景には,認知機能低下に伴うストレスや 焦燥感,病前の活動性の高さ,居住エリアでの対象者にとっての快刺激の乏しさが想定され,居住環境での対 象者の快刺激の増加と安全な歩行環境の整備による介入を行った。これらの介入の効果について,介入前と比 較を行った結果,「介護抵抗」では有意な介入効果は認められなかったが,「徘徊」については職員に対する対 象者の無反応が有意な減少を示した。さらに職員評価による対象者の「ネガティブ言動」の生起頻度の減少, 「徘徊」と「ネガティブ言動」の対応困難度の有意な軽減が認められ,介入効果が一部認められた。最後に, ステップ式の適用可能性と今後の課題について議論を行った。
  • ─研究者と実践家の連携ニーズ調査の結果から─
    堀口 康太, 小柳 達也, 福馬 健一
    2023 年 28 巻 p. 37-54
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2024/01/08
    ジャーナル オープンアクセス
    本学会の研究委員会では,「研究活動促進事業」を創出し,「ケアと研究の出会い」のさらなる促進を目的に活 動を行っており,その一環として,現場と研究の連携に関するニーズ調査を実施した。調査期間は2022 年1 月から5 月初旬までであった。送付数311 通のうち,41 通の回答があった(回収率13.2%)。41 通の内訳は研 究機関向けの質問紙が26 通,現場向けの質問紙が15 通であった。現場向けの調査の「研究者との連携・協働 の希望理由」について意味内容の類似性に基づいて【現場での活用】【知識・技術の補完】【ネットワーク構 築】【自己研鑽】の4 つが抽出された。研究者向けの調査における「現場との連携・共同の希望理由」につい ては,研究者はこれまでの研究知見を現場に還元し,現場のニーズを解消するための協働を行いたいと考えて いることが示された。本調査の結果,現場の研究に関するニーズは,研究を「知り」,研究に「関わり」,研究 の「サポートを受けつつ実践する」ことであり,研究者のニーズは,現場を「知り」,現場を「フィールドと して」,現場の「ニーズに応える研究実践」をすることであると示唆される。研究委員会として今後も会員の ニーズを充足できる活動を企画していくことが必要である。
  • ─ポジティブディビアンス手法に基づく質的研究─
    有田 久仁子, 石橋 裕, 石橋 仁美
    2023 年 28 巻 p. 55-70
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2024/01/08
    ジャーナル オープンアクセス
    身体活動は高齢期の心身の健康に強く関連するため,習慣的な身体活動の実施が推奨されている。特に,75 歳以上の高齢者にとって身体活動は健康寿命延伸のために重要であるが,身体活動ガイドラインの推奨を達成 している割合は低迷している。本研究は,ポジティブディビアンス(ポジデビ)手法に基づき,世界保健機関 が定める身体活動ガイドラインを超えて身体活動を実施している75 歳以上の高齢者をポジデビとし,習慣的 な身体活動を促進しうる日常生活行動を明らかにすることを目的に,75 歳から94 歳の計15 名にインタビュ ー調査を実施した。テーマ分析の結果,22 のコードを含む8 つのテーマが抽出された。8 つのテーマは,【身 体活動時間を確保している】,【身体活動量を把握している】,【体への効果を実感できる方法を持っている】, 【自分らしい方法を取り入れている】,【身体活動中に運動以外の楽しみ・目的を持っている】,【身体活動の場 で人と交流している】,【人に身体活動の話をしている】,【地域の環境資源を活用している】であった。本研究 結果は,高齢者の日常生活行動の多様性を包含しながらも,特別な施設や資金がなくとも自分の住む地域内で 実践できる行動例を示した。しかし,本研究結果をポジデビ行動と断定するには,今後更なる検証が必要であ る。
  • 齋藤 建児
    2023 年 28 巻 p. 71-81
    発行日: 2023/12/01
    公開日: 2024/01/08
    ジャーナル オープンアクセス
    コロナ禍による自粛生活の長期化により,高齢者は社会とのつながりが弱まり,サルコペニアを中心にフレイ ル化が認められている。本研究は,そのような問題を背景に,福祉専門職が捉えたコロナ禍におけるつながり の脆弱化により生じた高齢者および運営スタッフの課題と解決策の検討を目的とする。調査は,X 市の生活支 援コーディネーターと地域福祉専門員を対象に半構造化面接を行い,KJ 法を用いて分析した。その結果,高 齢者だけではなく,運営スタッフも心身や生活にダメージを受けていたことが示された。運営スタッフは,活 動の停滞や,地域社会からの批判を恐れ,意欲を減退していることが明らかになった。地域では,潜在的な社 会的孤立が深刻化する状況であった。さらに,入院の面会ができない高齢者がみられ,被害の複雑化が懸念さ れた。その一方で,地域では活動自粛を経て,交流の重要性を再認識する見解がみられた。以上から,疾病予 防や生活機能維持の対策も重要であるが,孤立する高齢者が社会参加できる場の構築が重要課題として見いだ された。
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