抄録
最近, 幾つかの施設から特異的な燐脂質脂肪肝の症例が発表せられ1-3), その発生が4, 4'-diethylaminoethoxy hexestrol dihydrochloride (以下Dh剤と略) の服用と関係があることも報告せられた4, 5). 更に動物実験の結果から, Dh剤の服用が本症の原因であることも確かめられた6).
我々も最近本症の一症例を経験し, その発生機序について解明を試みたので報告する. 症例は66歳の女子で, 高血圧症の為, 冠血管拡張剤としてDh剤を服用したもので,その後, 肝脾の腫大, 倦怠などを主訴として来院して来た患者である. 検査の結果, 血沈の高度促進, CRP陽性, 高コレステロール血症, 酸性ホスファターゼ値の上昇があり, 末梢血中に泡沫細胞を認め, 骨髄及び肝生検により, 特異的泡沫細胞, 空胞変性を認め, 更に電顕像でも本症に特異的と考えられるミエリン様層状構造物質を多数認めたもので, 今までの諸家の帳告と一致している, なお血清脂質は高コレステロール血症の他に, β-リポ蛋白, 燐脂質, 中性脂肪は異常高値を示し, 遊離脂肪酸はやや高めであった.