本稿では, 行動モデル研究に関して筆者らが持っている問題意識を,『観測と被観測の関係』に着目しながら話題提供することを意図している. 取り上げる話題は次の三点である. 第一に, 既往の代表的なモデル作成方法を, 観測と被観測の関係を捉える一つの有力なアプローチである逆問題の考え方に依拠して整理する. 第二に, 観測のための統計情報の利用可能性が広がった場合に, モデルを用いた影響予測や政策評価の信頼性・妥当性の向上を通じて生じる情報価値を, 社会的厚生のタームで把握する問題について議論する. 第三に, 被観測の立場にある主体の選好を行動モデルを通して把握し, それに基づいて政策評価を行う場合に生じうる論理的・倫理的問題について議論する.