抄録
多摩川の扇状地礫床河道部における安定植生域 (樹林地に代表される安定的に存在する密生植生域) の拡大の実態を調べた. それより, 安定植生域形成が河道の複断面化過程で現れた高水敷で起こったこと, 1981~1983年にかけての洪水により礫河原上に薄く広く堆積した「表層細粒土層」が安定植生域を担う植物群落 (ハリエンジュやオギなど) の急増を可能にしたこと, 複断面化と先駆的植物による高水敷上流速の低減効果が表層細粒土層の堆積を水理的に可能にしたことを明らかにし, 安定植生域拡大の包括シナリオを得た. これを基に, 安定植生域の消長を大局的に予測するモデルを構築・検証し, 安定植生域形成を促進・阻害する諸要因の影響度を計算により調べ, 植生動態を河川管理へ反映させる考え方を提案した.