抄録
文化的景観は生きた景観であり,伝統的な生業・生活の持続によって様相がきまる.これを真に捉えるには,景観において生きる人々の実存に迫る必要がある.本研究は17世紀に始まり,20世紀中期の民芸運動の影響を受けた陶業の産地である,福岡県朝倉郡東峰村小石原皿山地区を対象とした.ここで写真投影法を適用し,窯元とその家族の目に映った工芸/焼き物の里の景観表象とその価値を追究した.また里への来訪者の見方も併せて扱い,窯元らと比較した.さらに他地域の農業の文化的景観の研究成果と比較した.その結果,生活基盤要素の無意識化と背景要因の意識化がとくに職人の表象で確認された.また聖性と山水の表象が,生業の違いを超えて景観上,重要であることが示された.さらに薪積みの表象の,新たな景観的価値と来訪者の役割が示唆された.