抄録
防災事業では,「被災可能性に対する不安」の軽減効果について評価手法の確立,評価値の精度向上に向けた検討が必要とされているが,こうした災害に対する不安の軽減に関する便益については,これまで計測手法が確立されていないのが現状である.そこで,防災事業を実施することで確保される社会の安心・安全に関する便益の計測手法を確立することを最終目的とし,本論文では,従来のリスクプレミアムによらない「被災可能性に対する不安」の軽減による効果を測定するための心理尺度の開発を試みた.愛媛県の地震被害想定シナリオを参考にして,被災可能性に対する不安を測定するための項目を14作成した.それらの項目を用いて,391名の愛媛県八幡浜市民を対象としアンケート調査を実施し,探索的因子分析,信頼性分析を行った.その結果,被災可能性に対する不安として,ライフライン断絶に対する不安(自己不安),二次災害に対する不安,他者不安の3因子が抽出され,それらの信頼性も高かった.本研究で作成した項目は,3つの被災可能性に対する不安概念を測定するテストとして,信頼性が高い尺度であることが判断できた.