抄録
本論文では,アンケート調査を通して居住者がいかなる場面で住み替えを検討し,終の棲家の選択に際してどの程度の潜在的な住み替えニーズがあるか精査することを目的としている.茨城県日立市を事例とした分析から,近隣自治体と比較して生活利便性は低いものの住民の大半が定住志向であることを示した.しかしながら,これまでに住み替えの検討機会は度々あったことが確認され,介護・看護の享受を想定した際には将来的に住み替えを必要としない明確な定住意向者はわずか24.9%に過ぎないことが明らかとなった.一方,潜在的に住み替えニーズを有している世帯も多数存在するが,住み替えに伴う多様な制約要因を抱えているがゆえに終の棲家に対して妥協的な判断をせざるをえない状況にあり,住居選択の理想と現実の間に乖離があることを明らかにした.