土木学会論文集D3(土木計画学)
Online ISSN : 2185-6540
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特集(土木計画学:政策と実践)
Editorial
  • 藤原 章正, 藤井 聡, 鈴木 春菜
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_812-II_825
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     本特別企画は,令和5年において土木学会論文集が再編される機と同じくして新設される,新しい土木学会論文集の新カテゴリー「土木計画学(政策と実践)」の準備企画として,同カテゴリーと同様の主旨,対象論文,査読の視点にて,令和3年土木計画学研究発表会・春大会の発表論文を始めとして論文を募集し,査読を経た上で,発行するものである.なお,令和5年に再編される土木学会論文集では,これまでの景観・デザイン,土木史,土木計画学の三分冊体制を基本として,土木計画学を土木計画学(方法と技術)と土木計画学(政策と実践)の二つに分割したことで構成される四カテゴリー体制に移行することとなる.なお,本エディトリアルの最後には,各掲載論文の掲載趣旨を掲載する.

和文論文
  • 淺見 知秀, 谷口 綾子, 片桐 暁, 斎藤 綾, 上原 泰典, 内田 直人
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_1-II_18
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     栃木県小山市では,全市民16.7万人を対象に,コミュニティバスの利用促進のためのブランディングの手法を用いた低コストのモビリティ・マネジメント(MM)を実施した.本研究では,開発したMMツールについて,如何にブランディングしたか,如何にコストダウンを果たしたか,これまで暗黙知として共有されてこなかったツールの制作プロセスを記述することで,MMを実施する際の実務上の留意点,工夫点を明らかにする.加えて,アンケート調査によってMMが市民の意識や行動に与えた影響,定期券の販売データ集計によってMMがバス運営に与えた影響を明らかにする.

  • 中川 権人, 谷口 綾子
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_19-II_34
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     公共交通空白地域等で日常生活における移動手段確保の方策の一つとして注目されているものに,道路運送法の許可又は登録を要しない輸送(互助型輸送サービス)がある.本研究では,運行中もしくはかつて運行していた全国10の互助型輸送事例の情報収集・インタビュー調査を実施し,導入プロセス・実務的課題を把握した.その結果,互助型輸送サービスの導入には,キーパーソンの存在,無理のない運行計画の設定など,12の重要なポイントがあると分かった.また,ドライバーの負担の増加,後継者不足など5つの実務的課題が確認された.検討経緯で類型化したところ,モビリティ確保・まちづくり・福祉の3つの目的に分類できた.このように,互助型輸送サービスの導入を検討する団体が,最適なサービス設計を行うための参考情報を提示することができた.

  • 清水 宏樹, 安藤 慎悟, 谷口 守
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_35-II_44
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     諸外国では「15分シティ」など住まいからの生活圏に注目が集まっており,我が国においても高齢化の進展やワークスタイルの変化により生活圏概念は重要になると考えられる.一方従前推進されてきた立地適正化計画と併せて生活圏を検討するうえではその最も基礎的な検討材料として,実際の人の動きに基づいた人々の生活行動実態を明らかにする必要がある.そこで,本研究では第6回東京PT調査の特長を生かし,「CTD生活圏」をもとに各種私事活動の生活行動範囲を移動目的別に明らかにすることで,居住地周辺の生活行動と都市機能誘導区域との対応関係を検討した.その結果,都市機能誘導区域内への着トリップ集中状況が同程度の移動目的であっても,住まいからの移動距離には大きなばらつきがあることが明らかとなった.

  • 室岡 太一, 岡野 圭吾, 武田 陸, 谷口 守
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_45-II_55
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     近年,インターネットの普及などにより買い物における行動や意識も変化してきていることが推測されるが,それらは個人の価値観によって異なる可能性がある.そこで本研究では,購買環境充実に求められる施策のための基礎的情報を得ることを目的に,購買環境に対する重視項目について,時代・年代・世代および個人特性に着目して分析をした.分析の結果,1)ECの普及が進んだにも関わらず,現代の方が実店舗の利便性が重視されていること,2)上の世代はネット利便性を重視していないこと 3)若者は価格の安い商品を重視していることが明らかになった.また,個人特性に着目した分析では,地方都市圏居住者は店までのアクセスを重視する一方で,三大都市圏居住者は商品の質や好みを重視している傾向が見られた.

  • 藤原 章正, 中矢 礼美
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_56-II_70
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     自動運転技術の実装を目前に,技術開発・実装に関する倫理の醸成と弁証法的リスクコミュニケーション力の育成が社会に求められている.そこで本研究では,テクノロジカル・シティズンシップ教育のカリキュラムの開発と検証を行う.その特徴は,コンピテンシーを基盤としたカリキュラム,技術倫理の醸成および功利主義とマキシミン原理を活用した弁証法的リスクコミュニケーションの訓練にある.そのために,自動運転技術の開発者あるいは利用者となる大学生を対象として,日本とインドネシアの大学で4つの講義において実践し,その効果についての定量・定性分析を通してカリキュラムの改良を重ねた.その結果,最終版カリキュラムでは「技術の責任」「公共の場での行動」および「スキル」が向上し,弁証法的リスクコミュニケーション能力が身につくことを確認した.

  • 波床 正敏
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_71-II_83
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     本研究では国際交通における無害通行権の考え方,国内での交通政策基本法に至る移動の権利に関する議論の整理,土地収用の考え方と具体的な方法の整理,民地における囲繞地通行権の考え方と解決方法の整理をそれぞれ行った.その結果,共通概念として通行側の利益を重視していること,通行は無害通行が原則で,費用が発生する場合は通行側が負担するのが基本であるということがわかった.

     現行の交通政策基本法では移動が基本的人権としては認められていないため,囲繞地通行権のような法的な権利の半自動的な設定は難しい.だが,新幹線整備には公益性があること,対立地域間での局所的な整備水準の観点では,整備済み地域が未整備地域に対して整備を阻止する合理的な理由が存在しないことなどの考察を行い,一定の解決の方向性を示した.

  • 高木 朗義, 本多 茜
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_84-II_94
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,企業のレジリエンス向上を念頭に置き,『アプリ減災教室』を用いて企業・団体構成員の災害への備えを促進する方策を実践し,効果的な促進方策を明らかにする.結果として,『アプリ減災教室』は個人に任せて実施するだけでは気付きはあるものの,災害への備えの促進は限定的であり,短期間に二度実施するという期限を設定する方策,および『アプリ減災教室』の設問項目を用いた具体的な目標を示す方策が効果的であるとわかった.また,構成員に対して個別メッセージを送信する方策が効果的である可能性を示し,リーフレットを用いることで特定した項目が促進されることを明らかにした.

  • 武田 陸, 石橋 澄子, 谷口 守
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_95-II_107
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     COVID-19流行により2020年4月に1回目の緊急事態宣言が発令された.宣言中には諸活動で行動変容が生じ,解除後の流行前への戻りは活動や属性ごとに異なっていたと考えられる.そこで本研究では,人々が初めて外出自粛を経験した際の流行前への戻りも含んだ純粋な反応を捉えるために,活動間,属性間での変化パターンを定量的に比較可能とした行動弾性図を提案した.流行前,宣言中,その解除後の3断面でのダイアリーデータから行動弾性図を作成し,都市類型や職業による変化の違いを把握した.その結果,1)三大都市圏居住者や事務の在宅勤務実施は流行前よりも増加したままであったこと,2)自動車移動は解除後で流行前よりも増加しており,その傾向は三大都市圏居住者や無職者で大きかったことが明らかとなった.

  • 安藤 慎悟, 管野 貴文, 清水 宏樹, 谷口 守
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_108-II_117
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     近年我が国の地域活性化施策として導入されている「関係人口」は,これまで活動に際して訪問を伴う訪問型関係人口に議論の焦点が当てられてきた.しかし,COVID-19流行により地域への訪問が困難となり,訪問せず関わる非訪問型関係人口へ注目が高まっている.そこで本研究では,非訪問型関係人口の実態を活動別に定量的に把握した上で,COVID-19収束後を見据えて訪問型関係人口へのステップアップに寄与する要因を分析した.結果,1)一口に非訪問型関係人口といっても,活動内容によって関与する人々の属性や実施頻度などが大きく異なること,2)ふるさと納税は,訪問型関係人口へステップアップする可能性が低いこと,3)世帯年収が高い者や居住地と関わり先地域の距離が近い者ほど訪問型関係人口へステップアップする可能性が高いこと,などが明らかとなった.

  • 小松崎 諒子, 武田 陸, 宗 健, 谷口 守
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_118-II_129
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     COVID-19を契機にリモートワーク化などの活動のオンラインシフトが進展し,これを踏まえて今後の都市計画を行うためには,どのような個人がシフトしたのかという基礎情報が必要となっている.その際に,各活動の場所は相互に連関していると考えられるため,個人の1日の活動場所の変化の全体像を捉えることが重要である.そこで本研究では,独自のアンケート調査を用い,個人属性群ごとに各活動の実空間,オンラインでの活動時間を算出し,それを説明変数としたクラスタ―分析を行った.結果として,仕事と私事活動の両方においてシフトが進んでいる群だけでなく,特定の活動のみシフトしている群があるなど,オンラインシフトには複数のパターンが見られることが明らかとなった.

  • 大井 元揮, 原 文宏, 新保 元康, 佐伯 裕徳, 高野 伸栄
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_130-II_141
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     モビリティ・マネジメント教育として,身近な「交通」を教材とすることは,学校教育の目標である国家・社会の形成者,すなわち市民・国民として行動する上で必要とされる資質(公民的資質)を養うのに有用な対象であると考えられている.しかしながら,単純に「交通」を教材とすることで,学校教育現場で,自然と広がっていくものではなく,適切にMM教育を普及・拡大するためには,戦略が必要であり,その戦略の第1歩が文部科学省が定める学習指導要領に沿った学習内容とすることにあると考えられる.本研究では,平成23年より10年間に渡り継続的に実施,さらに,平成29年3月に改訂された学習指導要領にも対応したMM教育を実践し,高評価を得ている札幌市のプロジェクトを考察することでMM教育の普及・拡大に係る戦略を明らかにした.

  • 山下 洋平, 日比野 直彦
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_142-II_158
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     東京をはじめとする大都市では,容積率規制の緩和に伴い,都市再開発,超高層ビルの建設が行われている.超高層ビルの建設と鉄道駅整備に要する時間に差があることから最寄り駅では過度な混雑が発生し,快適性だけでなく安全性においても問題が生じている.本研究は,2000年以降に東京都区部に建設された超高層ビルを対象とし,容積率規制の緩和に伴う超高層ビルの建設が鉄道需要に与えた影響を定量的に明らかにしたものである.本研究では,容積率規制緩和制度の変遷,各容積率規制緩和制度を適用した超高層ビルの立地や敷地面積と延床面積の傾向,超高層ビルの用途別床面積と鉄道利用者数の関係等を明らかにした.また,その結果を踏まえ,容積率規制緩和の条件に,用途別の床面積を考慮することの重要性を提案した.

  • 岡野 圭吾, 室岡 太一, 安藤 慎悟, 谷口 守
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_159-II_167
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     近年,買い物弱者問題など購買環境に関する議論が多くみられる.購買環境はアクセシビリティから評価されることが多いが,どう捉えるかはあくまで個人の主観に基づくため,主観的評価の向上が求められる.しかし,どのような地域・品目で主観的評価が低いのかといった基礎的情報が明らかとなっていない.そこで本研究では,主観的評価の向上が求められる地域や品目を把握するため,独自アンケートと既存調査を接続することで,地域特性と主観的評価の関係や変化を分析した.結果,1)食料品は相対的に満足率が高く,衣料品のほうが低く評価されていること,2)都道府県別満足率は可住地人口密度・人口増減率と概ね比例すること,が明らかとなった.

  • 植村 洋史, 松中 亮治, 大庭 哲治
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_168-II_181
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,1981年から1990年に廃止された地方鉄道の駅を対象として,地方鉄道の存廃が駅勢圏における年齢階層別人口の社会増減に及ぼす影響を,統計的因果推論の代表的手法である傾向スコアマッチングを用いて推定した.

     その結果,地方鉄道を廃止することで,期首時点で10-14歳といった5年間のうちに高校卒業を迎える年齢の人々を含む年齢階層や,30-34歳,35-39歳といった子育てや結婚などのライフイベントを迎える年齢階層,60-64歳,65-69歳といった高年齢階層の社会増減率を低下させることを統計的に明らかにした.また,同一コーホートの社会増減率を長期的に分析した結果,期首時点で10代のコーホートでは統計的に有意な差は見られなかったものの,期首時点において20代・50代の長期的な社会増減に影響を及ぼすことを明らかにした.

  • 茂田 陵, 田中 尚人, 王 光耀
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_182-II_189
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     地域コミュニティの希薄化や担い手不足などにより地域景観の維持管理が危惧されている.本研究の目的は,熊本県西原村において道路景観の保全システムと運用のローカルルールを,地域コミュニティによる保全活動の実態とともに明らかにすることである.具体的には,地域の道路景観を相互評価する地域活動「道路品評会」について各集落にヒアリング調査を行い,道路清掃及び集落運営についてローカルルールを抽出・分析を行った.研究の結果,西原村では道路品評会の為の道路清掃が集落運営の基盤になっているほか,2種類のソーシャルキャピタルの基盤として機能することで,地域住民のシビックプライドの醸成に寄与し,協働意識の形成や集落コミュニティの強化に繋がっていたことが分かった.

  • 阿久津 友宏, 日比野 直彦, 森地 茂
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_190-II_201
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     働き方改革の推進および新型コロナウイルス感染症の拡大を背景に,テレワークは急速に進展し,通勤行動が大きく変化している.しかしながら,この通勤行動をはじめとする都市鉄道需要の変化については,今後の鉄道サービスやまちづくり等に関係する重要な変化であるものの,実行動に基づく定量的な分析が少なく,実態が明らかにされていない.本研究では,自動改札データと定期券情報を用いることにより,延べ利用回数を利用者数と利用頻度に分解し,増減要因を明らかにした.さらに,同一鉄道利用者の行動変化に着目し,コロナ期間中の変化とコロナ期間前の変化を,それぞれ居住地別・勤務地別に明らかにした.また,利用者数と利用頻度の変化だけではなく,利用者の乗車時刻にはほぼ変化が起きていないことを示した.

  • 丹羽 勇斗, 田中 皓介, 寺部 慎太郎, 柳沼 秀樹
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_202-II_211
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     これまでの新幹線整備を巡る議論では費用便益分析に代表されるような,効率的な連結という観点が中心となっており,有機的な連結という観点が差し置かれてきた.そこで本研究では,新幹線鉄道および高速道路の高速交通網の提示の有無が,人々が抱く当該地域に対する有機的連帯意識に対してどのような影響を及ぼすのか,ランダム化比較実験により実証的に明らかにした.一都三県の1500人を対象としたWeb調査により,被験者を3群に分け,それぞれの群に白地図,高速道路網図,新幹線鉄道網図の提示した後に意識調査を行い,高速交通網の提示の有無の影響を検証した.その結果,高速道路網を提示された群における新幹線の通過地域と非通過地域との間の有機的連帯意識の差は,白地図や新幹線網を提示された群に比べて,有意に小さくなることが示された.

  • 山本 康太, 田中 皓介, 寺部 慎太郎, 柳沼 秀樹
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_212-II_228
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     近年の日本では,観光需要の拡大から,チェーンホテルの全国各地への新規進出が相次いでいる.こうした動きは,地域内の雇用機会,税収,宿泊客の増加が期待される一方で地元店舗の需要を奪う側面もある.その影響は単に供給者が変わるだけにとどまらず,宿泊支出の帰着先が変わることにより地域経済への波及効果が低減する可能性が想定される.そこで本研究では,宿泊施設の経営形態の違いが地域経済へ及ぼす影響を明らかにするために,熊本市内の宿泊施設4店舗を対象に,各種支出の帰着先を算出するとともに,経済波及効果分析を実施した.その結果,1億円の売り上げを仮定した場合,全国チェーンホテルは地場ホテルに比べて,市内への直接経済効果は2220~2830万円程度,市内への経済波及効果は660~940万円程度,それぞれ小さいことが示された.

  • 久保田 聡一, 日比野 直彦
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_229-II_240
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     地下鉄は急曲線が多く,列車通過時に車輪とレールが接触することにより騒音が発生しやすいものの,利用者からの苦情に対する対症療法的な対策に留まり,積極的な対策がなされていない.また,地下鉄の騒音は,地上を走行する鉄道と比べて研究が少なく未解明な部分も多い.実務的には,列車走行の安全確保に向けた様々な定期検査を実施しているが,その中に騒音測定は含まれておらず,音データの蓄積がないことにより実態把握がなされていない.本研究では,地下鉄における騒音を測定し,「きしり音」や「波状摩耗に伴う音」が,曲線半径,列車速度といった複数の要因により発生していることを明らかにした.また,運転士への騒音に関する調査を実施し,運転士の感覚と音データとの関係を整理した.音データの有用性を示すことにより,蓄積とその活用の重要性を示唆した.

  • 中村 陸哉, 神田 佑亮
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_241-II_251
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     COVID-19の感染拡大による外出自粛に伴い,移動需要が急激に低下している.我が国の公共交通業界は収入が大きく落ち込み,公共交通サービスの提供の継続が困難な状況に直面している.公共交通の受けた影響の規模を把握するために,経営状況への影響度を多面的に把握する必要がある.本研究では,全国の上場交通事業者が開示する決算資料を集計し,営業収益や営業利益・損失の推移,雇用調整助成金の受取状況を分析した.その結果,交通事業者の危機的状況は加速しており,赤字・減収に対する支援も不十分であることが示された.

  • 河北 拓人, 根本 美里, 谷口 綾子, 小菅 英恵
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_252-II_261
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     日本では少子高齢化の進展により,高齢ドライバーによる重大事故が社会問題になっている.今後も高齢化が進行していく日本において,高齢者が安心して生活できる社会を確立するためには,どのような高齢ドライバーが事故やヒヤリを体験するのかを把握し,対応策を検討・実施する必要がある.以上より,高齢ドライバーの事故ヒヤリ体験に影響する要因を「認知機能」「運転への自信」「運転態度」「運転頻度」に注目して明らかにすることを研究目的とする.具体的には千葉県内で2018年9月~2019年9月に高齢者講習を受講した方の運転頻度等問診票を用いて分析を行った.その結果,高齢ドライバーの認知機能は運転への自信(自信あり)に影響し,運転への自信や運転態度(好き)は,運転頻度を増やし,運転頻度は事故ヒヤリ体験に影響することが示された.

  • 竹内 龍介, 吉田 樹, 猪井 博登
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_262-II_272
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     高齢者における免許自主返納者等の増加等に伴い,外出が困難な高齢者に対し,従来の公共交通を補完する自家用有償旅客運送の活用及び,ボランティア団体や地域の助け合いによる「互助」による,買物・通院等外出支援が今後重要性を増すと考えられる.

     そのような中,NPO等が運営する自家用有償旅客運送や許可又は登録を要しない運送による輸送手段の確保がなされているものの,活動に掛かる人材や費用の負担といった問題があることから,将来的な持続可能性についての課題があるとも考えられる.

     以上のような問題意識のもと,本稿では,自家用車を活用した輸送サービスについて,事業規模や収支構造等の供給特性,並びにそれらのNPO等の実施者の主観的な持続可能性との関係性について考察する.

  • 石橋 知也, 松田 知己, 東郷 浩樹, 柴田 久
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_273-II_284
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     石積みは,伝統的・文化的な風景を構成する重要な要素であるものの,被災した石積みの復旧方針・方法は自治体によってばらつきがあり,箇所ごとの対処にならざるを得ない状況にある.本研究は,平成24年九州北部豪雨によって被災した農村地区を有する自治体(うきは市,久留米市,八女市,伊万里市,武雄市,諫早市,大村市)での石積みの復旧実態,重要文化的景観を有する自治体(豊前市,唐津市,長崎市,平戸市,小値賀町)における被災した石積みの復旧実態,について職員へのヒアリング調査と現地調査から明らかにすることを目的とする.その結果,1)石積み復旧を促進する基準の見直し,2)石積み復旧に対する制度運用の有効性と課題,3)重要文化的景観における空石積み復旧の実態,4)重要文化的景観をめぐる課題への対応策,について指摘した.

  • 加藤 真人, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_285-II_301
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     土木計画や公共政策には,言論の自由が保障された条件の下で弁証法的議論が繰り返される必要があるが,これらを侵害する恐れのある社会心理現象を指す概念に「ポリティカル・コレクトネス(PC)」が挙げられる.本研究ではPCを「“原則的には必ずしも正しくはないが,時世上は正当である”と社会的に認識されている,他人に押し付けることを前提として用いられる価値規準」と定義し,その基本的特徴を把握するためのアンケート調査を実施した.分析の結果,「自分の価値規準を持ちつつも抽象的な論理や理屈に固執せず,謙虚であるような態度」を持つことがPC度の低減につながる可能性が示唆され,その方策として事実情報提供法やコミュニケーション法といった心理的方略が有効であることが示唆された.

  • 石塚 裕子
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_315-II_326
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     本研究は土木計画学における障害者や高齢者に配慮した社会基盤整備に関する研究(バリアフリー計画学と示す)の約半世紀の到達点ならびに新たな射程(課題)を明示することを目的とする.(1)既往研究のレビュー,(2)障害当事者運動との関係,(3)法的枠組みからみた課題,そして当事者研究を補助線に(4)ダイバーシティとインクルージョンの4つの側面から課題を抽出した.その結果,バリアフリー計画学は,社会基盤整備の全体最適化手法に対置する新たな計画論の端緒となったが,今後の新たな射程としては,人,空間,時間の多様性を重視した,参加のデザインや質の充足をめざした共創デザイン論,そして社会システムとしてのバリアフリー計画の主流化であるとした.

  • 高平 伸暁, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_327-II_339
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     我が国では,中小企業疲弊の源泉として企業間下請関係における「収奪問題」が長年議論されてきたが,近年,寧ろ収奪問題は深刻化しつつある.そこで本研究では,企業間取引の適正化施策に資する知見を得る事を目的として,戦後の収奪問題の学説とそれを踏まえつつ進展してきた制度的規制についての歴史的変遷をとり纏めた.その結果,収奪問題の研究には主に「中小企業論アプローチ」と「独禁法アプローチ」と呼べる二系譜が存在し,各々に由来する法規制がある事が示唆された.また両アプローチ由来の規制・定義にはそれぞれの利点・欠点があり包括的議論の為に新たに定義を一般化する必要性が示された.更に収奪規制の歴史的変遷から反競争的商慣行として批判されてきた「日本的系列」の再評価が必要である事が示唆された.

  • 渡邊 奈々恵, 山口 敬太, 川崎 雅史
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_340-II_354
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     都市部の遊水地の実現には多額の費用と多くの関係者との合意形成が課題とされている.寝屋川多目的遊水地は都市部としては広大な面積(50.3ha)をもちながら,治水事業の採択から19年と比較的早期に治水効果を発現した数少ない事例の一つである.本研究では,寝屋川多目的遊水地事業の実現過程の詳細や関係者の合意形成の実態を,計画策定時・事業実施時の行政資料の分析と関係者への聞き取り調査に基づいて明らかにした.その結果,寝屋川流域における遊水地計画の検討体制や事業実施における協力体制,資金確保のための大蔵省との折衝,地権者との用地買収交渉,地元住民との遊水地整備に対する合意形成などが遊水地実現の要点であったことを明らかにした.

  • 金森 紘代, 藤井 聡
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_355-II_363
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     地籍は土地管理の基礎として重要な役割を担っているが,1952年より行われている地籍整備の現在の進捗率は52%である.整備遅延の要因は一概には言えないものの,そもそも日本における地籍研究は乏しく,特に約70年という長期間にわたる地籍整備の推移を考慮した分析は行われていない.本論文では,地籍整備の推進を企図し,地籍整備の変遷と現状を整理するとともに,地籍調査事業開始以来70年間の進捗率の大まかな推移,地帯別面積割合および地帯別進捗率,着手率の伸びから,各都道府県がどの様な特徴を持ち合わせたうえで現状に至ったのかを把握するため,階層的クラスター分析のグループ分けによる考察を行う.その結果,都道府県の進捗率には地帯特徴に応じた国の政策方針が影響している可能性が示唆された.さらに,分析結果と考察を踏まえ,地帯特徴を考慮した地籍整備推進策について述べる.

  • チン ティ タオ , 中村 文彦, 早内 玄, 鈴木 渉
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_364-II_373
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     ハノイ市は,過度なオートバイ利用から公共交通への利用を転換させるために,路線網の再編や延長といったバス利用促進施策を実施している一方,バス利用状況には期待された増加が見られない.この要因として,施策の策定にあたり住民の意識に関する分析が十分に行われていない点が挙げられる.本研究では,利用者,非利用者におけるバス評価の形成要因とその影響度を表す評価構造を明らかにすることを目的とする.利用者,非利用者双方を対象にアンケート調査を行い,共分散構造分析を用いて評価構造を構築した.その結果,利用者,非利用者ともに,車内環境の快適性が運賃や所要時間等のサービスより,バス総合評価に大きく影響を与えることが示唆された.また,バス移動における利点への評価や,欠点への許容度もバスの評価に影響することが示された.

  • 中島 隆汰, 田中 皓介, 寺部 慎太郎, 柳沼 秀樹
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_374-II_384
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     交通問題の解決のために公共交通の利用を促進するモビリティ・マネジメントにおいて,その動機付け情報としてこれまで環境負荷や維持費等の負担,健康増進における公共交通の優位性が提示されてきたが,これらに加えて地域経済への貢献度においても公共交通は自家用車に対して優位であると考えられる.そこで本研究では熊本市を事例として,公共交通と自家用車それぞれへの支出の地域経済への貢献度を定量的に分析した.その結果,モビリティへの支出のうち熊本市に帰着する割合は,公共交通である熊本市電では59.91%,自家用車では39.98%となり,地域経済への貢献度における公共交通の優位性が示された.

  • 松中 亮治, 大庭 哲治, 笠島 隆史
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_385-II_392
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,地方都市における鉄道ダイヤのパターン化が,鉄道とバスの相互の乗換の利便性に及ぼす影響を定量的に示すことを目的として,全国各地の地方都市において191の交通結節点に乗り入れる2,240のバスの方面を対象に,鉄道ダイヤのパターン率と乗換に関する指標の関係を分析した.

     その結果,バスの運行頻度が鉄道の運行頻度以上である場合においては,10分乗換可能率の期待値との差が,鉄道ダイヤのパターン率が50%未満の結節点では-1.8%であるのに対し,50%以上の結節点では3.2%となっており,鉄道ダイヤがパターン化されている結節点において,短時間で乗換できる場合が増加することを示した.

  • 神田 佑亮, 冨永 凌太郎, 赤木 大介, 重光 裕介, 藤原 章正
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_400-II_408
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     近年,我が国では異常気象や災害の発生数が増加傾向にある.2018年には,「平成30年7月豪雨」が西日本を襲い,交通網が麻痺した.それにより,通勤や物流等の企業活動の動きが途絶え,相当額の経済被害が発生したと考えられる. その対策として,「災害時BRT」に代表される様々な交通需要・供給マネジメント策が講じられた.一方で,予算や制度面での問題から,交通網の復旧途上で中止の議論もあったのも事実である.こうした課題認識から,本研究では,交通に甚大な影響を及ぼす災害発生後のマネジメントの議論に資するため,「平成30年7月豪雨」に講じられた交通マネジメント施策によって抑制された交通途絶の経済被害抑制効果について,道路事業の便益分析に用いられる手法を参考にしつつ推計する.結果として,豪雨災害発災後,JR呉線の運行再開までの約2ヶ月の間,推計の対象とした経済被害減少便益だけでも約50億円程度となることが推計された.

  • 山崎 基浩, 安川 和博, 愛川 遼
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_416-II_424
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     わが国における交通事故死者数は減少傾向にあるものの「歩行中」など致死率の高い事故の減少率は低く,安全対策の必要性が高まっている.愛知県豊田市では「歩行者保護モデルカー活動」と称した人対車両事故削減を目的とした交通安全啓発に取組んでいる.本研究では「横断歩道での歩行者優先」を取り上げ,ドライバーへの意識調査で得られた知見を踏まえ,地域住民らによる交通安全街頭啓発運動を活用した効果的な啓発方法を検討した.

     ドライバーとのアイ・コンタクトを取りながら「止まってくれてありがとう!」等のメッセージを掲示し停止したドライバーに会釈する等,街頭において「能動的な啓発活動」の実証実験を行った結果,「能動的な啓発活動」実施時には通常の街頭活動時よりも歩行者優先率が向上することが明らかとなった.

  • 吉田 樹
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_449-II_459
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     わが国の乗合バス運賃は,総括原価方式に基づく価格設定が基本だが,協議運賃制度を活用した運賃低廉化施策のほか,高齢者の経済的負担を軽減するバス乗車証制度など,地方公共団体等の財政負担を前提とした政策的割引の事例も存在する。本研究では,青森県八戸圏域における二つの施策を事例に,乗合バス運賃の政策的割引の合理性や課題を示した。その結果,運賃に対して需要が弾力的に変化するのは,概ね毎時1往復以上運行されるケースに限られるが,財政負担を投じたとしても,地方公共団体等と乗合バス事業者の双方に利得が生じる場合があり,政策的割引の合理性が確認された。一方,高齢者バス乗車証に関しては,運行頻度が希薄な区間では,乗車証の利用割合が高く,政策的割引への負担金の多寡が運行の維持に影響する可能性が高いことを示した。

  • 羽鳥 剛史, 杉田 篤史, 志田 尚人, 片岡 由香, 大西 正光
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_460-II_469
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,協働の場づくりにおける「ハーモニー」の役割に着目し,異なる主体が相手のパートを聴きながら自分のパートを歌唱するというハーモニー共同行為が協働を促進する効果とその条件について検討する.その際,ハーモニーを用いたワークショップの知見を基にして,混合歌唱とパート別歌唱という2つの歌唱方法を取り上げ,前者の方が後者に比べて自律性と協調性に基づく協働の場が醸成される傾向がより高いという仮説を立て,それを検証するための実験を行った.本実験より,混合歌唱を行ったグループでは,パート別歌唱を行ったグループに比べて,グループワークの失敗の申告回数が高く,グループ内の利他的傾向もより高くなる傾向が見られ,仮説を支持する結果が得られた.最後に,本研究の結果が協働の場づくりに示唆する点について考察した.

  • 大野 沙知子, 金森 亮, 森川 高行
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_470-II_479
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     高齢者の自家用車運転の断念,傾斜地での歩行能力の減退などにより,日常の外出そのものの機会が減少し,QOL低下を招く傾向がある.本研究では,高齢者人口が一機に増加するニュータウン居住者を対象に,「個別モビリティ・プラン」の作成に取り組んだ.「個別モビリティ・プラン」は,介護における個別ケアプランとの連携を意図しており,自宅の立地,家族構成,身体の状況,移動需要など利用者の多様な特性を丁寧に把握するとともに,個性に応じた移動手段の転換をゆるく促す仕様である.本稿では,高蔵寺ニュータウンで実施した社会実証実験について報告し,利用者モニターの作成結果ならびに事後アンケート結果から「個別モビリティ・プラン」の課題について整理する.

  • 竹口 祐二, 大井 元揮, 伊地知 恭右, 石原 信登志, 鈴木 聡士
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_480-II_490
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     近年,地方部では人口減少や高齢化等の人口構造の変化に起因して,種々の課題が表出している.特に,バスや鉄道をはじめとした公共交通サービスは,潜在的な需要の高まりに反してサービスレベルが低下し,その地域の定住性悪化に繋がっている.本研究では,こうした地方部の移動課題解決に向けて北海道当別町で実施された「定額タクシーサービス」について分析し,当該サービスが交通空白地への移動支援方策として,利便性,持続性,簡便性,定住環境,社会的効用の観点から有用であることを示した.これらの分析観点は,利用者視点,行政視点,社会的視点を踏まえたもので,移動支援方策検討の上で重要な要素であり,かつ,本研究の特長的な切り口である.

  • 戸川 卓哉, 大西 悟, 福島 秀哉, 後藤 良子, 五味 泰子
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_491-II_508
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     環境先進都市・まちづくり先進都市と呼ばれる都市・地域が存在し,それらの中には多主体の共創的プロセスにより地域の課題が克服され,新たな価値が創出されている事例も見られる.しかしながら,情報を包括的に整理・共有する枠組みが未整備であるため,得られた知見はそれぞれの現場で共有されるに留まっている.本研究では,環境・まちづくり先進都市である岩手県紫波町,宮城県女川町,宮崎県日南市の資料文献調査及び政策担当者へのインタビュー調査に基づき,その地域づくりの過程において特徴的に現れる要素を抽出し,パターン・ランゲージの枠組みに基づいてパターンとして記述した.さらに,抽出されたパターンから先進事例に共通するプロセスの構造と地域ごとの特殊性について検討し,先進地域から他地域へと持続可能な地域づくりの技術・知識・経験を展開するための枠組みを提案した.

  • 石川 忠晴
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_509-II_521
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     国交省は河道改修主体の従来の治水から氾濫域における社会の組織的対応を含む「流域治水」に舵を切りつつある.しかし具体的内容には未定の部分も多く,特に河道対策と氾濫域対策の連携についてはほとんど触れられていない.一方,江戸時代には河川と氾濫原を一体とした治水が広く実施されており,今後の流域治水の参考になる可能性がある.しかし当時の治水事業の多くは文書や絵図のみで記載されているため,治水効果等の定量的把握は十分なされていない.そこで本研究では,複数の氾濫数値シミュレーションの結果に基づき,江戸時代の土木技術者が見ていた河川工学的風景を可視化し,当時の事業の具体的効果とその裏にある治水思想を考察して,流域治水の今後の発展に有用と思われる事項をとりまとめた.

  • 河合 晃太郎, 谷口 綾子, 小西 信義, 宮川 愛由, 佐藤 真人
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_522-II_534
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     近年,地方の過疎化に伴い,各地において地元店舗の衰退が進んでいる.このような問題に対して,個別的なコミュニケーションを用い,住民の地元店舗での買い物を促す行動変容施策が注目されてきている.本研究では,地元店舗の利用促進に向けたコミュニケーション施策を実施し,それによる住民・店舗主の態度・行動変容の程度を定量的に把握すること,また地元店舗の店舗主の努力に向けた現状と課題を定性的に把握することを目的に,北海道豊頃町の店舗主・町民を対象にアンケート調査・インタビュー調査を実施した.その結果,1) 店舗主が客一人一人のニーズに合わせ,無料送迎や商品の取り寄せなどの様々な努力を行っており,また行政に対しては肯定的な意見を持っている者とそうでない者のどちらも見られたこと,2) コミュニケーションツールが地元店舗への態度変化や地域愛着の醸成を促し,それが地元店舗来店回数にポジティブに作用することなどが示された.

  • 増田 智志, 日比野 直彦, 稲村 肇, 井上 聰史
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_541-II_555
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     物流施設の郊外化や大型化,ドライバー不足,働き方改革等の近年の物流環境の変化は,貨物車の高速道路利用を変化させるものと考えられているが,その影響は明らかになっていない.本研究は,首都高速道路における2014年度以降の貨物車交通について,ETCデータを用いて利用変化を分析にするとともに,企業等へのインタビュー調査からその変化要因を明示することを目的とする.分析結果より,貨物車台数は継続的に増加しており,施設立地戦略の変化を一因に,その傾向には地域差があることを明らかにした.また18時前後における利用時間の前倒しや1日の利用回数増が確認され,働き方改革や輸送効率化が高速道路利用に影響していることを示した.今後,勤務時間管理や輸送効率化が重要となることで,より都心側の地域で施設需要が増加する可能性を示した.

  • 五三 裕太, 福島 秀哉
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_556-II_573
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     本稿は文献レビューにより,スケール横断的な計画概念「河川文化アプローチ」(Wantzen et al., 2016)に着目して,具体施策の実践課題を接続した分析のフレームワークを整理し,日本の既存施策における河川管理と地域再生の連携推進に向けた展開可能性および課題を考察したものである.研究の結果,河川文化アプローチの背景にある課題認識の構造と5つの基本方針との対応を整理し,参加型プロセス,河川再生事業,自然に根ざした解決策(NBS)の3つを関連が深い施策カテゴリとして抽出した.さらに各施策カテゴリにおける実践課題と期待される役割を示し,施策分析のフレームワークとして整理した上で,日本の河川施策について,流域治水,かわまちづくり,多自然川づくりの一体的推進の重要性と各施策の役割を指摘した.

  • 遠山 航輝, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_574-II_591
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     我が国では近年,国民の間に,投票以外の形態での積極的な政治参加を忌避する意識が存在すると言われるが,政治的な活動に対する日本人の忌避感の要因については,これまでのところ学術的解明が不十分な状況にある.本研究では,デモや署名といった投票以外の政治行動や,家族や友人との政治的会話などを含めた「積極的な政治参加」に対する忌避感の背後にある心理の構造を探るため,アンケート調査・分析を実施した.その結果,「政治恐怖・軽蔑度」「対立忌避傾向」「自己閉塞性(大衆性の因子の一つ)」が高い人ほど,積極的政治参加を忌避する傾向があることが示唆された.また,「非ニヒリスト度」「傲慢性(大衆性の因子の一つ)」が高い人ほど積極的政治参加に積極的になる傾向があることが示唆された.

  • 大野 沙知子, 中村 俊之, 小池 春妙, 中山 典子, 戸田 友介
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_592-II_602
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     高齢者の交通事故,免許返納に関しては,今後さらなる高齢化を迎える我が国において対処すべき重要な課題であるが,都市部と非都市部では取り巻く環境から同様のアプローチでの解決は困難である.本研究は愛知県豊田市の公共交通機関が乏しく,高齢化率が高い中山間地を対象として,超小型電気自動車を活用した高齢者が自らの意思で自在な移動を達成することを目的とした地域実践の取り組みである.

     実践取り組みを示した上で,地域で利用可能な超小型EVの利用促進に向けて,アンケート調査データに基づき共分散構造分析を行った.分析の結果,利用意向は車両自体の評価に加え,主観的価値観が直接的,個々人の運転特性が間接的に影響することが明らかになった.本研究を通じて,高齢者の意識の特性別に利用促進策を示され,今後地域でのさらなる実践を進める知見を得た.

  • 須永 大介, 谷下 雅義, 原田 昇
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_603-II_612
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     本研究では,札幌市におけるCOVID-19流行前後のシェアサイクル利用実態の変化について分析を行った.その結果,1)1日当たりの利用回数がほぼ一貫して増加し,それには登録会員数の増加が寄与していること,2)平土休日ともに利用がされていること,3)新規設置ポートが一定の利用回数を獲得するとともに住宅地の既設ポートにおいて利用回数が増加していること,4)大幅な利用回数増加は,新規会員だけでなく,既存会員の利用回数増加が大きな要因となっていること等を明らかにした.そしてこれらを踏まえて,シェアサイクルに期待される役割と施策展開のあり方について提案を行った.

  • 竹内 龍介, 吉田 樹
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_613-II_622
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     我が国では,人口減少及び小規模需要への対応等を背景として民間事業者によるバス路線の運行が困難となっている地域において,各地域の実情に応じた自治体主導によるデマンド交通やコミュニティバスなどの導入が増加している.本研究では,既往の地域公共交通に関するマニュアル,手引き及び特色のある導入事例のレビューを通し,自治体が現場で直面する課題へ対処する上で想定される論点を抽出し,その内容ををもとに,デマンド交通及びコミュニティバスを導入している自治体にアンケート調査を実施し,デマンド交通及びコミュニティバスの地域や費用面の差異,並びに導入時における検討項目の違いについて整理及び分析を行った.その結果,導入地区や費用,また対象利用者や運行形態といった各輸送システムの特性を踏まえている状況が観測された.

  • 岡村 元太郎, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_634-II_650
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により,世界各国で健康的,経済的な被害が生じるとともに,社会的な分断も問題となった.日本でも飲食店等の営業自粛については賛否が分かれ,また「自粛警察」とも呼ばれる過剰な態度・行動を通じて社会的な軋轢が発生した.しかしこうした態度に関する心理学的研究は少なく,また特に時間的な変化を加味した分析はほとんどない.本研究では,2020年5月と10月に行われた「新型コロナウイルスに関する行動・意識調査」の結果を分析し,5月に比べ10月では,感染に対する懸念,他人の視線に対する懸念,自粛への賛成度,自粛警察的態度が有意に緩和していることや,テレビのキャスター・司会者を参考にする者は感染への懸念が強く,他者の視線を気にし,自粛警察的態度を持ちやすいこと等が示された.

  • 中道 久美子, 片桐 暁, 井村 祥太朗, 萩原 剛, 菅原 鉄幸
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_651-II_667
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     クルマから環境にやさしいエコな通勤手段に転換する「エコ通勤」に取り組んでいると認められる事業所を公的に認証する「エコ通勤優良事業所認証制度」の登録数は,近年頭打ちとなっていた.そこで,登録数獲得に向け,意匠だけでなく計画も含む本来の意味の「デザイン」の専門知識を取り入れたリブランディングが進められている.本稿では,1) マーケティング理論の一概念であるカスタマー・ジャーニーに沿った計画に基づくエコ通勤のPR状況を記述し,2) その効果をアクセス数やツール稼働数等の実務データを用いたKPIで検証した上で,今後の普及・促進のために有効な施策を示すことを目的とする.分析の結果,公共入札・調達での優遇制度等の外部要因以外に,ツールの効果が定量的に観察され,デザイン,ブランディングが重要であることが示された.

  • 上田 大貴, 川端 祐一郎, 藤井 聡
    2022 年 78 巻 6 号 p. II_668-II_676
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/04/20
    ジャーナル フリー

     2020年に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大は,健康被害のみならず,感染症対策のための社会活動制限を通じて,経済にも大きな損失をもたらした.本研究では,2020年第2・第3四半期において,新型コロナウイルス感染症対策のための行動制限が各国のGDPに与えた影響を44ヵ国のデータを用いて検討し,行動制限がGDPを大きく低下させることを確認する.また,データの比較が可能なG7各国について,労働者の賃金に対する政府補償の充実度合いが行動制限及びその緩和に与える影響についての実証研究を行った.その結果,政府による補償の充実は感染拡大を抑止するための行動制限を促進する効果とともに,制限の解除時においては経済活性化の促進効果を持つことが示唆された.

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