2012 年 68 巻 4 号 p. I_202-I_208
地震による各地の変位波形やそこから得られる残留変位は,地震の特徴を理解する上で重要な情報である.各地の地震加速度記録を用いて変位波形を計算する際は時間積分を行うことが一般的であるが,多くの場合,変位波形にトレンド成分が発生し,正確な値を把握することは難しい.これは,観測記録の長周期成分が地震計の傾きや観測ノイズなどに影響されやすいためである.トレンド成分を取り除くために長周期成分をカットすることもあるが,長周期成分は変位波形への影響も大きいため,本来,慎重な扱いが必要である.そこで,観測記録から地震計の傾きという物理的に意味のある成分を特定・除去し,得られた波形に対して,依然観測ノイズの影響分が大きい場合のみ,影響を受ける周波数領域をカットする,という手法を提案した.また,フーリエ変換による波形の歪みを抑えるため,因果律を拘束条件とした周波数領域での積分手法を合わせて用いている.最後に,これらの手法を,岩手・宮城内陸地震(2008)に使用し,適用性を確認した.