抄録
落石, 土石流, 雪崩, 津波などの動的な自然作用に対する安全性を合理的に評価し, 構造物を要求される性能にあわせた設計を行ういわゆる性能設計が求められている. このような自然作用を受ける構造物では, 当然非常に高いリスクは避けるべきと考えるが, 一般に零ではないあるリスク以下は許容可能とする設計が考えられる.
落石対策においても, 発生源における落石の危険度評価とともに, 落石がどのような経路で, どのような運動形態を示しながら, どれくらいの速度で到達してくるかを把握することが, 住民と公共構造物の安全性を考える上で必要である.
実際の落石現象は, 地表面の形状や地質条件, 落石の形状や樹木の有無などの影響により複雑であるため, 実務においては, 落石の発生予測をはじめ落石の運動形態や考慮すべき落石の運動エネルギーなどの設計条件は, 落石対策便覧を参考に経験的に設定されることが多い. しかしながら, 落石対策便覧に示された経験則を適用することが適切でない場合も多いことから, 落石の運動挙動を予測し, リスクを評価するための落石シミュレーション手法が開発・提案されている.
これまでに提案されている落石の運動シミュレーションは, 既往の実験結果を参考に, 2次元斜面を用いたシミュレーションが試みられる場合がほとんどであるが, 既往の落石実験は, 切土法面や樹木が伐採された斜面, 採石場などといった裸地に近い斜面で行われており, また, 斜面傾斜は30° ~60° 程度と急で, 斜面高さも20~80m程度であるため, これとは異なる斜面, 特に樹木が植生している斜面や30°以下の緩斜面, 長大斜面などに対しては十分に落石の運動を予測できるとはいえないのが現状である. このため, 実際の斜面上の落石挙動を合理的に推定できる方法が必要となっている.
このような現状より著者らはより実用的なシミュレーション手法の確立をめざし, 3次元斜面における落石運動機構の解析手法の開発を行っている.
本論文では, さらに実斜面に近い状態を再現するために, 斜面表面の3次元の凹凸を考慮する解析手法について定式化を含めその詳細について述べ, 簡単な斜面上の落石挙動解析に適用した数値解析結果により本手法の有用性について検討した.
その結果, 斜面の凹凸を落石が斜面に衝突した瞬間にモデル化した三角形平面の法線ベクトルにあるランダムな傾斜を与えて表現することにより複雑な落石の衝突挙動を3次元シミュレーションで再現することができ, 本手法の有用性を示すことができた.