2019 年 19 巻 p. 22-34
本研究はカンボジアにおけるケア施設退所者の生活状況をとらえ,ケア施設が果たした役割を明らかにすることを目的とする.バッタンバン州にあるケア施設を事例に,施設開設時からの全入居者379名の入居データから施設入居に至る青少年の属性をつかみ(分析①),筆者が駐在中に行った参与観察,ケア施設の同窓会参加者48名に対する半構造化インタビューおよび3度の退所者の追跡調査を通じて,施設が果たした役割を導き出すことを試みた(分析②).その結果,経過確認ができた対象者に限定された評価となるが,A施設は生活基盤および教育の機会の保障を通じて退所者の経済的安定をもたらす機能,および退所後の生活への円滑な移行を支援する機能を果たしていることが明らかとなった.不必要な長期間入所は避けなければならないが,カンボジア固有の事情を鑑み,個々人の事情を正確に判断したうえで,必要があれば施設入居が一つの選択肢となりうることが示唆された.