抄録
56歳,女性.2007年1月左難聴を自覚.近医で中耳炎と診断され,局所療法と抗菌療法がなされたが症状持続.同年10月には発熱,耳漏,眩暈も加わり,当院耳鼻咽喉科を受診.耳漏よりMethicillin-Resistant Staphylococcus Aureus (MRSA)が検出され,抗菌療法が開始されたが症状は増悪したため同科入院.純音聴力検査で両側混合性難聴,CTで両側中耳,乳突蜂巣に浸出液貯留を認めた.myeloperoxidase anti-neutrophil cytoplasmic autoantibody (MPO-ANCA)が高値(133EU)で,ANCA関連血管炎による病態が疑われ当科紹介.乳突洞削開術および生検を行うも有意な所見は得られなかった.感染症,中耳の構造変化,腫瘍性病変など中耳炎の原因病態は除外でき,明らかな肺・腎病変などの臓器病変は認めなかったが,MPO-ANCA高値陽性が関連した中耳炎と判断し,methylprednisoloneおよびazathioprineによる治療で,発熱,耳症状,聴力は改善し,CRPとMPO-ANCAも陰性化した.また,これら症状および所見の改善後も時に認める耳漏からは引き続きMRSAが検出されており,このことからもMRSAが主病因とは考え難かった.ANCA関連血管炎で難治性中耳炎を伴うことは稀である.本例は肺・腎病変を伴わなかったが,多彩な臓器病変を伴う全身性の病態に発展する可能性があり,また治療開始の遅れは不可逆性の耳障害を来す可能性もあるため,早期に適切な治療を開始すべきである.病理組織学的所見を得難い部位であり,中耳炎の原因としてANCA関連血管炎を念頭に置くことが早期診断に必要であると考えられた.