日本臨床免疫学会会誌
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Special Lecture
Special Lecture 2  iPS 細胞技術が可能にする新しい医療
中内 啓光
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2012 年 35 巻 4 号 p. 264

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抄録

  21世紀の新しい医療として体性幹細胞や多能性細胞を利用した再生医療が世界的に注目されている.代表的な多能性幹細胞であるES細胞は,試験管内での増殖能でも,また多分化能の点でも最も高いポテンシャルを持つ幹細胞であるが,受精後1週間程度の胚を利用して作製するため患者からES細胞を作ることは難しい.しかし最近,核移植することなく体細胞を初期化してES細胞と同等の能力を持つ幹細胞を誘導するiPS細胞作製技術が確立され,体細胞をES細胞と同等の能力を持つ多能性幹細胞に転換した“患者自身の多能性幹細胞”を利用する道が開けた.これにより遺伝子を修復して遺伝病を根治する遺伝子矯正治療や,iPS細胞技術を利用して抗原特異的なT細胞を若返らせてから免疫療法を行うなど,これまでは考えられなかったような新しい遺伝子・細胞治療が可能になるだろう.また,多能性幹細胞の高い増殖能を利用して血液細胞を産生し,献血に代わる安定した輸血の供給源としての利用も考えられる.
  一方で,現時点で考えられている幹細胞を利用した再生医療の多くは細胞を用いた細胞療法であって,心臓や肝臓といった実質臓器の再生は遠い将来の夢と考えられている.これは臓器の形成過程において必要とされる複雑な細胞間相互作用を試験管内で再現することは不可能と考えられているからである.しかし,臓器を再生してドナー不足を解消するということは再生医療の究極の目標の一つであることは言うまでもない.そこで我々は胚盤胞補完の原理を利用して動物個体内でiPS細胞由来の臓器を作出することを考え,遺伝子改変により膵臓を欠損するマウス(Pdx1−/−マウス)の胚盤胞にGFPでマーキングしたラットiPS細胞を移入したところ,ラットの膵臓を持つマウスが誕生し,正常に成育することを見出した.これらの結果は臓器発生過程の分子機構を理解するための新たな方法論を提供するとともに,将来的に異種動物個体内で実質臓器を再生するといった,全く新しい再生医療技術の開発に大きく貢献するものと期待される.

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© 2012 日本臨床免疫学会
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