2012 年 35 巻 4 号 p. 268
腸管上皮幹細胞研究が進むとともに,これら幹細胞を体外で培養しヒト疾患の診断・治療へ応用する技術に期待が集まっている.
最近我々は,マウスおよびヒトの正常大腸上皮細胞の体外培養を可能とする独自の技術を確立した.この方法では,正常な大腸上皮細胞が非上皮細胞なしに,無血清培地で,3次元的に,継代操作を経て,長期にわたり培養できることが明らかとなった.また本法においては,Lgr5発現陽性の大腸上皮幹細胞が数の上で著明に増えることを見いだした.そこで,体外で大量に増やしたマウス培養大腸上皮幹細胞を用いて,上皮傷害を誘導したレシピエントマウス大腸に移植する実験系を構築した.その結果,移植した培養大腸上皮細胞が傷害部位の欠損上皮を補充しつつ粘膜修復に寄与することを明らかにした.さらに,ただ一個の幹細胞から増やしたドナー細胞の移植によって複数のマウスに移植片が生着し,かつ長期にわたってドナー細胞が移植片内で幹細胞として機能することを見いだした.
本研究成果は,少量の組織幹細胞を体外で大量に増やし,腸管上皮傷害に対する幹細胞移植治療の資源として利用可能であることを示すものと考える.本シンポジウムではこれらの成果を提示し,内視鏡検体を用いるヒト大腸上皮幹細胞培養技術についても議論したい.