抄録
背景
S1Pは,スフィンゴ脂質と呼ばれる生体内に多く存在する脂質である.生体内でのリンパ球の移動は,リンパ球上に発現するS1P1が血液ならびにリンパ液に存在するS1Pと反応することで制御されていることが遺伝子改変マウスを用いた研究から明らかにされている.このようなことから,直接的な免疫抑制ではなく,リンパ球のS1P1を標的にしたリンパ球の移動制御,すなわち,病変部からの隔離を介して作用する免疫抑制剤の開発が注目されている.しかしながら,現在までに開発された非選択的S1P受容体拮抗薬は免疫抑制作用がなく,逆に,多発性硬化症の治療薬として認可されたFTY720のような非選択的S1P受容体作動薬がリンパ球移動の抑制を起こすことから,S1P1を介した免疫抑制メカニズムは不明な点が多い.
成果
現在までに開発されたS1P1拮抗薬はS1Pと類似する化学構造を有しているが,大正製薬が創製した化合物は,構造上S1Pとは異なる基本骨格を有する.本化合物の経口投与により,循環血液中のリンパ球が減少し,胸腺からのT細胞の放出,脾臓におけるリンパ球の移動が抑制され,TGF-bの産生に関与するCD69の発現が増強した.関節炎モデルを用いて,免疫抑制活性を検討した結果,関節炎の発症,コラーゲンに対する自己抗体の産生を有意に抑制した.従って,S1P1の機能抑制がリンパ球移動制御を伴う免疫抑制に必要であり,本化合物が新たな免疫抑制剤として応用可能であることが示唆された.