抄録
強皮症(SSc)では線維化病変に加えてレイノー現象など末梢循環障害を高率に伴うが,そのメカニズムは明らかでない.血管生物学の進歩により,骨髄に存在する血管内皮前駆細胞(EPC)が末梢血に動員され,傷害血管にホーミングして成熟血管内皮へと分化する脈管形成の機転が成人の血管修復に重要な役割を果たすことが注目された.私たちはSSc患者末梢血中のEPCが減少し,血管内皮への分化能が障害されていることを報告し,SSc血管病変の形成機序として「EPC異常による血管修復不全」という新たな病態概念を提唱した.その後,EPCは多様な細胞集団であることが明らかにされ,それまでの研究成果の見直しが必要となった.私たちが解析していた細胞は「真のEPC」ではなく,血管新生促進血球系細胞(PHC)中のCD34+CD133+CD309+CD45dimCD14−未分化PHCで,その異常が血管病変形成の要因のひとつであることは間違いない.一方,CD34dimCD133−CD309dimCD45+CD14+単球系PHCはSSc末梢血で増加し,血管新生促進活性,線維芽細胞への分化能が高く,むしろ線維化病態への関与が示された.これらEPC異常の是正はSScの末梢循環障害に対する新たなストラテジーとなる可能性があるとともに,その機序の追究はSSc病態解明のブレイクスルーとなることが期待される.