抄録
マクロファージは,自然免疫において中心的な役割を果たしている.病原体の感染の際に活性化する細胞をM1マクロファージ,一方でアレルギー,メタボリックシンドローム及び癌のような多くの疾患に関与する細胞をM2マクロファージと呼称している.しかしながら,今までの研究では多くの疾患に関わるこのM2マクロファージが,実際にどのようにして生まれ,どのように生体内で働いているのかについては殆ど分かっていなかった.そこで,このM2マクロファージと疾患との関係性に焦点を当てて研究を行った.
最初に,M2マクロファージ分化とアレルギー応答との関係性に焦点をあてた研究を行った結果,エピジェネティックな遺伝子制御に関わるJmjd3が,IRF4の発現を制御し,アレルギー応答の際に活性化するM2マクロファージの分化に必須である事を解明した.
また,私達の研究からJmjd3非依存的な経路で分化するM2マクロファージも存在していることが明らかとなった.この新規M2マクロファージを探索した結果,脂肪組織の様な抹消組織にTrib1によって分化の制御をうけるM2マクロファージが存在しており,この細胞が脂肪組織等のメンテナンスを行っていることを突き止めた.また,興味深い事にこのTrib1−/−マウスは,高脂肪食下ではメタボリックシンドロームを発症した.
以上の結果から,我々の体内には病気ごとの“疾患特異的M2マクロファージ”が存在していることが推測される.したがって,これらの病気ごとのM2マクロファージの研究が,様々な疾患に対する効果的な治療薬の開発に繋がると考えられる.