抄録
多発性硬化症(Multiple Sclerosis: MS)は病変の空間的多発・時間的多発を特徴とする中枢神経の炎症性脱髄性疾患である.視神経炎による視機能障害,四肢体幹の運動・感覚障害,膀胱直腸障害,高次脳機能障害,精神障害などが出現しうる.病初期は一般に再発と寛解を繰り返し,ステロイドパルス等の免疫療法が有効で症状の回復が期待できるが,経過中に明確な再発なく障害が進行する病態へ移行する例が多い.再発にはヘルパーT細胞とくにTh1細胞やTh17細胞の病原性が示唆され,リンパ球を標的とした治療が再発抑制に有効である.しかし進行性の病態に対する良い治療法は未だない.MSの一卵性双生児における同胞一致率は約30%で,遺伝因子とともに環境因子の役割が注目される.本邦での有病率が欧米白人のそれに徐々に近づきつつあることから,生活習慣・食習慣の欧米化の関与が推定される.実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis; EAE)はMSの動物モデルとして汎用され,MSの病態解明・治療薬開発に大きく寄与してきた.MSは多様性の高い疾患で,これまで視神経脊髄型MSとされた病型が,アクアポリン4に対する自己抗体の発見を契機に視神経脊髄炎としてMSから独立した.しかしなおMSの臨床像は多様であり,テーラーメイド医療へ向けた研究が重要である.