日本臨床免疫学会会誌
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会長講演
会長講演 ヒト免疫病態の理解とその臨床応用を目指して
河上 裕
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2016 年 39 巻 4 号 p. 286

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抄録

  私は大学卒業後,なんでもできる内科医を目指したが,実は多くの患者さんを治す方法がないこと,その解決のためには研究が重要性であることを痛感した.当時,魅せられた「がん遺伝子発見によるがんの解明と治療の可能性」と「Flow cytometryを用いたヒト免疫サブセット同定による免疫疾患の解明と治療の可能性」に関わる血液感染リウマチ内科に入局した.その後,ヒト疾患の免疫制御に興味をもち,米国で研究することになった.NCI-NIHでは,Steven Rosenberg博士から,免疫介入臨床試験症例の臨床検体を用いたヒト免疫応答研究,その結果に基づいたマウスモデルを用いたin vivo免疫応答研究,さらに新しい臨床試験の実施と評価,このサイクルをくり返すTranslational Researchの重要性を,またCaltechでは,Leroy Hood博士から,医学・生命科学の重要な問いに答えるためには,新規技術を開発することの重要性を教えられた.実際,Caltechでは,後のヒトゲノム計画の推進を可能にしたfluorescent DNA sequencerが開発されていた.私はヒトがん免疫応答を細胞・分子レベルで解明することに力を注ぎ,ヒト悪性黒色腫では腫瘍抗原特異的なT細胞ががん細胞排除に関与することを明らかにしていったが,この数年,免疫チェックポイント阻害剤,あるいは培養T細胞利用養子免疫療法として,抗腫瘍T細胞を制御するがん免疫療法は実用化された.一方,現在の免疫療法は皆に効くわけではなく,heterogeneityが強いヒトがん免疫病態の解析を通じて,個別化医療を可能にするバイオマーカーの同定や新規治療標的の同定と制御法の開発が期待されている.このためには,今,改めて,免疫介入臨床試験の臨床検体を用いた解析,特に学習型スーパーコンピューターをも用いた多層オミクス解析などの新技術を駆使することの重要性を痛感している.また,免疫病態は,いわゆる免疫疾患(感染症,自己免疫,アレルギー,移植,がん)を超えて,メタボリック症候群や動脈硬化などの代謝疾患・生活習慣病,あるいは神経変性症や痴呆症,さらに老化など,多様なヒト疾患・病態で重要なことが明らかになりつつある.ヒト免疫病態の解明は本当に重要である.

  日本臨床免疫学会は,疾患横断的かつ異分野横断的に,臨床免疫学,すなわちヒト免疫学の理解とその臨床応用を議論する場として,医学・生命科学において益々重要な学会となっている.

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© 2016 日本臨床免疫学会
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