日本臨床免疫学会会誌
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シンポジウム
シンポジウム1-1 常在細菌叢によるバリア組織の恒常性維持
澁谷 彰小田 ちぐさ
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2016 年 39 巻 4 号 p. 287

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抄録

  腸管,皮膚,気管などのバリア組織は上皮細胞で覆われ,異物や病原体の侵入を防いでいる.一方,これらの上皮には多数の常在細菌叢が棲息し,免疫システムの発達と維持に重要な役割を担い,そのバランスの乱れが種々の疾患にも繋がることが明らかにされつつある.これらのバリア組織では,常に無数の上皮細胞が死に絶えていく一方,新しい上皮細胞が新生される.しかし,上皮の細胞死とそのターンオーバーの制御機構は充分には明らかになっていない.また,死んだ上皮細胞は貪食されずに,便,垢,痰などに排泄されていくが,この様な死細胞に生理的な働きがあることなど考えられてこなかった.

  我々は,自然免疫応答を担う骨髄球系細胞の活性化を正または負に制御する免疫受容体であるCD300ファミリーを同定し,その機能を解析してきた.そのうち,CD300aはアポトーシスに陥った細胞膜上に表出するホスファチジルセリン(PS)をリガンドとして特異的に結合し,骨髄球系細胞の活性化を抑制する.最近我々は,常在細菌がバリア組織の樹状細胞を刺激し,制御性T細胞を増加させる一方,同時に上皮の細胞死を誘導し,樹状細胞に発現するPS受容体であるCD300aを介して,樹状細胞の活性化と制御性T細胞の増殖を抑制する経路を発見した.これら経路は,腸炎,アトピー,喘息などの病態に関与した.これは常在細菌叢によるバリア組織の恒常性維持機構のひとつと言える.

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© 2016 日本臨床免疫学会
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