2017 年 40 巻 4 号 p. 255
好塩基球は顆粒球の一種で,1879年にPaul Ehrlichによって初めてその存在が記載されたが,その後長い間,生体内での役割・存在意義に関してほとんど解明が進んでいなかった.好塩基球は,末梢血白血球のわずか0.5%を占めるに過ぎない極少血球細胞集団であり,また好塩基性分泌顆粒,高親和性IgE受容体FceRIの発現,ヒスタミンを含むケミカル・メディエーターの分泌などマスト細胞との類似点が多いことから,マスト細胞のバックアップ的存在あるいは前駆細胞と見なされ,マスト細胞に比べきわめて影の薄い存在であった.一方,解剖学的観点からすると,マスト細胞が末梢組織中に定住しているのに対し,好塩基球は末梢血中を循環するといった局在の違いは明らかで,好塩基球が生体内でマスト細胞とは異なるユニークな役割を担っている可能性が示唆されていた.事実,この数年の間に立て続けに,生体内におけるアレルギー反応や免疫制御において好塩基球が極めて重要な役割を果たしていることが報告されて,これまで日陰者扱いされていた好塩基球が,にわかに注目を集めるようになった.本講演では,私たちが最近見いだした,好塩基球による「慢性アレルギー炎症誘導」と「寄生虫感染防御」を中心にして,生体内における好塩基球のユニークな役割について討議したい.