抄録
不完全型Behcet病にautoerythrocyte sensitization syndrome:自己赤血球感作性紫斑病または自己赤血球感作症候群(以下AES)を合併した1症例を経験したので報告する.
症例: 53歳女性,昭和42年ころから再発性口腔内アフタ,陰部潰瘍,結節性紅斑様皮疹が出現し, Behget病と診断された.昭和55年,両下腿伸側に出血斑が出現.昭和62年4月ころより両上肢にも皮下出血斑が広がり,再発多発傾向が認められるようになった.その出血斑は,出現の2~3日前に「うずく」ような痛みを伴う.針反応陰性時,自己血液成分による皮内反応を試み,赤血球の皮内反応で陽性所見を得た.とくに,溶血させた赤血球の皮内注射で径40mm×40mmと強陽性であった.さらに内容を分離して皮内反応を試みると赤血球膜成分で陰性,ヘモグロビンでも陰性であり,これ以外の赤血球内容成分の抗原性が疑われた.以上より,本症例は1955年にGardner & Diamondが初めて報告したAESに合致する1例と思われる.
AESの病因としては,自己血球成分に対するアレルギー反応が考えられている.抗原としてphosphatidylserineやDNAがあげられているが,血清学的に異常所見を呈さない症例が多いため心因あるいは性格に起因する自虐的行為,中枢性の血管反応ではないかとする精神説がRatnoffらによって唱えられている.しかし,本症例のごとくアレルギー素因や精神的素因があり,それに毛細血管の脆弱性とステロイド剤による修飾が加わって血管透過性の亢進および赤血球の漏出と止血の遅延が起こり,組織固定抗体との反応が繰り返されて紫斑が多発するという機序も推測されることから今後,単なる精神説にとどまることなく,アレルゲンの同定や発症機序の解明を目指すことが重要と思われる.