抄録
18ヵ月の低ガンマグロブリン血症の女児を報告する.患者は生後6ヵ月より遷延性の上気道感染症を繰り返していた.血清Ig値はIgG 311 mg/dl, IgM 15 mg/dl, IgA 45 mg/dl.ワクチン接種にもかかわらず水痘,ポリオ抗体は陰性であったが,百日咳抗体(IgM)は陽性であった.リンパ球亜群分析ではCD 20, CD 8, CD 4, CD 16陽性細胞数は正常であったがCD 4+CD 45 R+/CD 4+比は増加していた. In vitroでは患児B細胞はSAC刺激に対する増殖反応は正常で, SAC+IL 2刺激でIgG, IgM, IgAを産生した. PWM刺激に対してはIgMを若干産生したが, IgG, IgAはほとんど産生しなかった.混合培養では患児T細胞は健常人nT細胞の抗体産生をヘルプしなかったが,健常人T細胞は患児nT細胞の抗体産生を部分的にヘルプした. PHA芽球化反応は低下していたが, IL 2添加により改善した. In vitroにおいてCD 4+T細胞のPHA+IL 2刺激によるCD 45 R発現の低下現象が健常人に比べ障害されていた.以上のことから,患児ではCD 4+CD 45 R+からCD 4+CD 45 R-への機能的分化の欠陥あるいは遅延があり,そのことが抗体産生能障害である可能性がある.この異常が一時的なものか否かは経過を追って観察する必要があるが, T細胞に原因を有する低ガンマグロブリン血症の病態を理解するうえできわめて示唆に富んだ症例と思われる.