抄録
母体にとってSemiallograftである胎児を維持する免疫学的機序を知るべく,脱落膜組織に浸潤している単核球(MNC)を取り出し,その細胞膜表面の性格をモノクローナル抗体を用い検討するとともに,それらの細胞の存在部位を免疫組織学的に検討した.さらにその機能についても検討した. MNCは初期妊娠中絶により得られた脱落膜組織より得た.細胞膜表面の性格の検討では末梢血MNC (P-MNC)に比し, CD 8+細胞が多く, CD 4+/CD 8+ ratioが著明に低下していた.またこのCD 8+細胞はCD11b-細胞でcytotoxic T-cellと判断された.これらの細胞の占拠部位は脱落膜緻密層にはマクロファージ(Mφ)のみ存在し,リンパ球はみられなかった.一方,脱落膜海綿層ではリンパ球およびMφがみられ,その他NK細胞も少数ながらみられた.これらの多くの細胞は, HLA-DR+細胞であった.しかしIL-2 receptor陽性細胞はみられなかった.またCD 8+細胞はCD 8+, CD11b-のcytotoxic T-cellであった.そこで次にこれらの細胞の機能をP-MNCと比較検討した.PHA反応性は低値を示した.しかしIL-2に対する反応性は高値を示した.またNK活性も認められず,逆にsuppressor活性が高かった.
以上,脱落膜組織のT-cellは膜表面の性格はcytotoxic T-cellで,また活性化されているが,膜表面にIL-2 receptorをもたず,また全体の細胞の機能として抑制機能が有意で,妊娠維持に好環境が形成されているものと判断された.