抄録
Wiskott-Aldrich症候群は易感染性・湿疹・血小板減少を3主徴とし,伴性劣性の遺伝型式をとる原発性免疫不全症候群である.本症候群の免疫異常としては,血清IgMの減少,抗体産生能の異常,特異抗原に対するリンパ球の幼若化現象やMIF産生能の低下があげられる.一部の症例では好中球機能とくに遊走能の低下が報告されている.
著者らは,生後1ヵ月の男児の本症候群患児にtransfer factor (TF)を投与することにより臨床症状の改善とともに好中球機能の回復がみられたので報告する.
患児は生後3日に血便で発症し, 25日目に下痢・湿疹・出血斑で入院した.入院時血小板数3.5万/mm3,血清IgM48mg/dl,抗体産生能の低下をみた.好中球のchemotaxisは遊走刺激物質としてFMLPあるいはザイモザン活性化血清(ZAS)のいずれによっても低下していた.貪食能は正常であり,スーパーオキサイドの産生はサイトカラシンDでは正常であるが, FMLPでは中等度の減少がみられた.
本患児に北海道赤十字血液センターから提供されたTFを生後2ヵ月から毎週1単位ずつ皮下に注射したところ, 4週前後から臨床症状の改善がみられた. 10週後の好中球chemotaxisの検査では,投与前の1.3mm (正常2.3-2.9mm)から2.8mmと正常化した. TFの投与間隔を2, 3, 4週と長くするに従ってchemotaxisは減少傾向をみたが, 4週間隔にしてもTF投与前よりもchemotaxisは有意に改善傾向がみられ,易感染性も軽減した.