抄録
D-PenicilIamine (D-PC)は,進行性全身性硬化症(PSS)に対してその有効性が議論されている.われわれも,肺線維症を伴うPSS症例において,副腎皮質ステロイド薬で治療していたが,肺線維化が進行増悪したためD-PCを併用した.肺線維化の進行を抑制しえたが,投与1ヵ月半後に近位筋の脱力があらわれ,血清CPKなどの筋原性酵素が著明に上昇し,筋電図および筋生検で多発性筋炎に合致する所見を得た. D-PCの投与中止で多発性筋炎の症候は完全に改善した. D-PCの副作用は従来より種々報告されているが,本例のようなD-PCで多発性筋炎を起こした症例は,世界でも20数例を数えるにすぎない.さらに本例のごとく少量(200mg/日)で著明な筋炎症状を示した例はまれである.ここで遭遇した経験は,少量でしかも比較的短期間の投与で,かかる重篤な副作用が起こりうることを明らかにした.